第223話 ユウタの反魂玉に鬼の力を



『さて、俺の目の前に姿を見せてくれたということは、復讐をやめるのか?」


一志かずし』が無表情でそう言うと、ユウタは意外にも明るく答えた。


「まあね。やっぱりナオヤ達を見送ったら、気が変わったんだ。僕も別の心残りがあるかもしれないってね」


『一志』はその返事に、少し目を細めてユウタを眺めた。解放されたいというのは嘘ではないらしい。


「どうしたらいいの?」


 ユウタの疑問に、『一志』は反魂玉に鬼力きりきを入れるのだと教えた。


『お前に覚悟があるなら、今すぐ鬼力を入れてやる』


 ユウタはその言葉に頷くと「お願い」と『一志』に頼んだ。


『一志』は内ポケットから美紅みくつのを取り出すと、ナオヤ達にしてやったようにユウタの胸元に近づける。


 黄金色の粒子が薄いヴェールの様に光の膜となって、それからユウタの胸に吸い込まれていく。


『一志』は注意深くユウタを観察する。彼が望む本当の心残りがあれば、ユウタは最後の復讐をやめるだろう。それがユウタの表面に態度として現れないかと、『一志』は見守る。


 そしてレッドもまた、ユウタを見つめる。


 再び一人になる寂しさを抱えながら、ユウタの解放のために出来ることはなんでもするつもりだった。


「……」


 ユウタは閉じていた目をゆっくりと開ける。


 深くため息をつくと、今までに見たことの無いゆるんだ笑顔を見せた。


『何か、わかったか?』


「ん、まあね」


『教えろ』


「……恥ずかしいから教えたくないけど、それじゃが納得しないよね」


『当たり前だ』


「……お母さんに会いたい、だった」


 ユウタはキャップのつばをグッと下げて顔を隠す。流石に『一志』も言葉に詰まってしまった。


「会わせてあげてもいいでしょう?」


 レッドがユウタの肩を抱きながら『一志』に問う。『一志』に異論は無かった。


『家は、どこだ?』


「引っ越してなければ、国分寺にある」


『……わかった。気をつけて行け』


 反魂玉の中身が鬼力ならば、この街から出ていける。隠の気に頼らずに動けるのだ。


 それから『一志』はレッドに向かって言った。


『彼を見届けたら、反魂玉を持ってここへ戻って来い。曲垣と話をしたいだろう?』


「そうね、楽しみにしてるわ」


 レッドはユウタを抱えると、再びふわりと宙へ舞い上がった。


 ——母親、か。


『一志』はこの時代で家に帰れば、まだ若い母に会えるのだなと、不思議な気持ちになった。




 つづく

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