第221話 闇夜に紛れて

 夜——。


 と言ってもこの街に本当の夜が訪れることはない。誰かしらが起きていて活動している。


 ましてや土曜の夜だ。


 大通りの人混みの中を、二人のチンピラが歩いていた。


 一人は派手なシャツを着て、もう一人はグラサンをかけている。『一志かずし』達に情報をくれた二人組だ。


 その二人の前に一人の女性が立ち塞がる。


「?」


 見たことの無い顔だ。


 瓜実顔に涼やかな目元。長い黒髪を下ろしている。化粧っ気の無い顔だが、そのままでも十分に綺麗な女性である。


 ただ、赤い古ぼけたダッフルコートを着ていた。


 二人組は赤いコートの女性に腕を掴まれると、考える間もなく、ものすごい力で路地に引き摺り込まれる。


 そのまま路地の奥に放り込まれて、埃まみれになった。反射的に怒りで立ち上がり、ポケットからナイフを取り出した瞬間、子どもの声が背後から聞こえて来た。


「やあ、おじさん達。ちょっといいかなぁ?」




 黒いキャップの子どもと赤いコートの小柄な人物——いわゆる新宿の幽霊。


「マジかよ……昼間にの話をしたばかりだぜ」


「ほ、本当にいたんスね」


 グラサンと派手シャツは戸惑いながら、幽霊と相対する。狭い路地は逃げ場がなかった。


「別に取って食べやしないよ。ちょっと聞きたいことがあるだけさ」


 子どもはクスクスと笑う。


 生意気な口の利き方だが、この幽霊が本物の異形であることは『刀のアニキ』から知らされている。下手に刺激すればライバルの黒木より先に消されてしまう。


「……なんの用でしょう?」


 グラサンが丁寧に聞き返すと、子どもは軽く口笛を鳴らした。


「僕みたいな子どもにそんな態度を取るってことは——僕の正体を誰かに聞いたってことだ」


 ユウタはニヤニヤと笑いながらグラサンにそう言い放った。


「ま、僕らは君らの身体に付いてた鬼の匂いで気づいたんだけど。話しが早くて助かるよ」


「……」


「的場タカシの居場所が知りたい。刀を持った奴らには教えたんだろう?」


 有無を言わせぬ笑顔に、グラサンは冷や汗を流しながらスマホを手にした。




 つづく

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