第218話 もう一つの未来

「えーっ? なに今の?」


「すごい! どうやったんだろ!?」


「アンコールする?」


「消えるのもう一回見たい!」



 集まっていた人々が口々に騒ぎ出す。


紫堂しどう、片付けをするぞ』


「もうー、たかむらくんはもうちょっと感動にひたるとかないの!? ……良い歌だったね」


『ああ、本当にな』


 早く撤収しないと、彼等が残していったギターやマイクが盛り上がった聴衆に触られたりもっていかれそうだと感じた程だった。


 ギターを手にしたヨウコに、どうやって消えるイリュージョンをしたのか聴く者もいた。ヨウコは困ったような顔をして「ナイショです」と答えて誤魔化す。


「良かったよー、なんてユニット?」


「——ナイショですぅ」


 オペラもそう言ってマイクスタンドをたたむ。不意に俯いた足元にぽつりと何かがこぼれ落ちた。


『紫堂?』


「……これから……だった……のに……っ!」


 オペラが悲痛な声を絞り出した。


 マイクスタンドを握りしめる手が震えている。


「僕らと……同じぐらいの歳じゃない? なのに……なんで? 僕と違って……やりたいこともちゃんとあったのに……!」


『そうだな、お前の言うとおりだ』


 そっとピンク色の頭を撫ででやると、オペラは深いため息をついた。


「……ごめん。お客さん達が声をかけてくれるからさ、なんか、あの二人にも別の未来があったのかなって思っちゃって」


 ——別の未来。


 その言葉を聞いた瞬間、『一志』の心臓がドクンと跳ね上がる。


 ——そうだ。俺は今、別の未来への岐路に立っている。


 いや、もはや自分の知らない未来に向かって動いているのだ。そして、ナオヤとタクミを無事に昇華させたことは、きっと最良の一手であるはずだ。


 そう考えた時、コツンと何かが『一志』の足に当たった。小石のようなものを蹴飛ばしたらしい。


『む……』


 小石だと思った物は、黒地に朱色と金、白の模様の入ったウズラの卵よりもひとまわり小さい宝珠——反魂玉だった。





 つづく

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