第217話 別れの歌を君に



 ——今でも君がいた街に、不確かな恋が住んでいて。


 ——今でも君がいた街に、消えそうな恋は住んでいて。


 ——星空にかざした手をこえて、青い無限のような。


 ——寒空を暖める懐かしい二人のような光が。


 ——まだ、僕の中に残している君が。


 ——歌にならない、さよならになる。



 …………。



 締め付けるような歌声に、皆静かになる。


 彼等の歌声以外、世界は音を失くしたかのように静まり、歌を聴く誰もが溢れる切なさに涙する。


一志かずし』達以外の誰が知っているだろうか。


 ナオヤとタクミはこの歌を最期の歌として歌っているのだ。


 二度と歌うことの叶わない死者。


 全ての想いを込めて、二人は歌う。


 これが僕らが最後にしたかった事——。





 ——今でも君がいた街に、懐かしい僕は住んでいて。


 ——今でも君がいた街に、戻れない思い出があふれてて。


 ——降りしきる雪を透かして、永遠が見えたような。


 ——一番綺麗な夜を届かない君にあげるよ。


 ——……さよなら。



 最後は歌詞だったのか、彼等の気持ちだったのか。その言葉を歌い上げて、瞬き一つしたあと、二人の身体は光の粒子に変わり、指先から消えていく。


 空に向かって光の粒が登っていき、気がついた時には二人の姿は無かった。


 あとはただ、拍手の嵐。




 つづく

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