第216話 二人の歌声


 ——……🎶


 低い音がタクミの腕の中にあるギターから紡ぎ出される。アンプから出る演奏は聞き覚えのある流行はやりの曲で、二人を見る人が一気に増える。だが立ち止まる人はまだいない。


 そんなことを気にもかけず、ナオヤは歌い出した。


 甘く低い声が、明るい曲とのギャップを生んで人々の興味を掻き立てる。


 幾人かが立ち止まって、遠巻きに見ている。


「すごいね、綺麗な声」


 うっとりとヨウコが聴き惚れている。オペラも同じ表情で頷く。


 オペラはスマホで動画を撮っていた。ライブ中継して宣伝しているらしい。


 何人かの女の子たちがヨウコに声をかける。前もって知らせていた友人知人達だ。そうやって少しずつ立ち止まる人が増えて行く。


「この曲知ってる〜」


 誰もが知っている有名な曲のカヴァーだから、街ゆく人も聞きやすいのだろう。


 そうやって一曲が終わる頃にはだいぶ人が集まっていた。


「こんばんは、ナオヤです。ギターはタクミ。あと少しだけ、付き合ってください」


 ナオヤがマイクを通して挨拶する。


 オペラ達が拍手を送ると、つられたように他の人もそれを真似してくれた。


「次の曲はタクミが作った曲です」


 そう言ってタクミに合図を送ると、せつなげなメロディが流れ始めた。


 バラードだ。


 明るい曲から打って変わってメロウな曲調に変わり、離れる人も出て来る。しかし二人は慣れているのだろう、動じることなく歌い始めた。


「デュオ、なのね」


 ヨウコが呟く。


 一つしかないマイクを間に置いて、ナオヤとタクミは寄り添って歌声を重ねた。




 つづく

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