第205話 もう二人いる、甦った者達


『とはいえ、放ってはおけまい』


『鬼丸』のしわがれ声が重々しくマヤの思いを受け止める。


 それは『一志かずし』も同じだ。


 できれば、怒りや恨みに囚われた魂を解き放ちたいとさえ思っている。


『マヤさん、君は彼らが解放されなくてもいいと思っているのか?』


「……それは……」


『一志』が問うと、マヤの瞳が揺れる。


 マヤはユウタ達の味方であるが、彼らが苦しみ続けるのを見るのは辛いと思っている。そう思いながらも、姿形の変わらない彼らに永遠という金剛石ダイアモンドにも似た煌めきを感じているのも事実だ。


 変わらないでほしい。


 いつもそばにいてほしい。


 たまにでいいから頼ってほしい。


 ——それはマヤのわがままである。


 答えを飲み込んで黙ってしまったマヤに、『一志』は尋ねた。


『ナオヤとタクミとやらに会いたい。彼らが復讐を果たしたというのに解放されないというのが気にかかる』


「それは……」


 答えようか迷うマヤに、ヨウコが助け舟を出す。


「マヤさん、私がダプトに案内しようか? 二人を見かけたことはあるから、会えばわかると思う」


「……ダメよ」


 マヤはほとんどため息に近い返事をした。マヤもまた戸惑っている。目の前の少年たちが、ユウタ達を解放してしまうとしたら……? 


 ——私はどちらを望んでいるんだろう。






金糸雀かなりあ』から出ると、『一志』はたまり場・ダプトへの案内をヨウコに頼んだ。


『悪いな。ユウタとの約束もあるんだろう?』


 ヨウコは首を振って「かまいません」と言ってくれた。


 ユウタは泊まるところのないヨウコにダプトを教えてくれたのだが、その際、ダプトのことを口外してはならないとキツく言っていたのだ。


「みんなが私を護ってくれるんでしょ?」


 少し緊張した白い顔に笑みを浮かべて、ヨウコは三人と『一振り』を見た。


『一志』は当たり前だと頷き、曲垣はいつもの無表情で頷く。


 オペラは——。


「えっ、えっ、ボクも……?」


「オペラが頼りになるの、知ってるわ」


「そ、そうかなぁ」


 ついでに数に入れらた『鬼丸』も一人(?)満足げに『うむうむ』と頷いている。


「さ、行きましょう」


 ヨウコはコートの裾を翻し、スラリとした脚を見せながら元気よく歩き出した。





つづく

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