第203話 決裂


「で、事情はいろいろわかったけど、お兄さん達は僕をどうしたいわけ?」


 ユウタの声にハッとして顔を上げる『一志かずし』。面倒そうに長いため息をつくと、彼は口を開いた。


『お兄さんと呼ぶのはやめろ。イヤミったらしい響きが耳障りだ』


 ユウタは目を細めた。


 それはまさにユウタの気持ちそのものである。本当なら目の前の高校生達よりもずっと年上のはずだ。それだけの年月を狭いこの街に閉じ込められて過ごして来た少年のことを思うと、彼が子ども扱いされて怒るのはもっともなことであった。


 思えば初めからユウタは一志達に突っかかって来ていた。今にして思えば、真っ当に育った高校生達への嫉妬だったのだろう。


「ふふん、初めてだね。そんなこと言われたの」


『俺も中身は歳くってるからな。お前と同じくらいだ』


「ふん、街の外の世界で過ごす二十年と、この街に縛られて過ごす二十年とでは中身が違うだろ。同じじゃないさ』


 ここに至って『一志』はようやくユウタの中にある煮えくりかえる忿怒に気づいた。どうにも収まらぬ理不尽への怒り。だからこそ復讐すべき相手に出会った時のあふれ出る歓喜は止めようがないのだ。


「レッドには感謝してる。仕返しできるチャンスを彼女はくれたんだ」


 そう言うとユウタは席をたった。


 カウンターに乗せていた黒のキャップを手に取ると、店を出て行こうとする。


『待て』


「無理だ。君らとは相容あいいれない」


 わかってるだろ、と言い捨ててユウタはドアを閉めた。カランカランとドアベルが鳴り、誰もが黙りこくって閉じたドアを見つめていた——。





 つづく

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