第202話 そしてまだ、謎がある


「——瘴気しょうきを補充しながらじゃないと、僕らは不死を続けられない。だから僕らはこの街から出て行かないんだ」


『瘴気?』


「悪い気——人の負の感情と言ってもいいかな。この街ほど雑多にマイナスの感情が集まるところもないよね」


 それを聞いていた『鬼丸』が納得したように話し出した。


『なるほどのう。其方そなたの『反魂玉』に鬼力きりきを感じぬのはそのせいか。しかし陰の気で動けるとは知らなかったわい』


 しゃべる刀を見て、ユウタがギョッとする。


「何これ?」


『鬼の遺した物だ。鬼の歴史に詳しいから、お前達の事も大体は察することが出来た』


「鬼? そうか、レッドはその鬼だったんだな」


 しかし『一志』は首を振ってそれを否定した。それからレッドについて説明する。


 鬼ではなく鬼の遺物でかりそめの命を宿していること。そして元々は人であったこと。恋人との仲をかれた女性だったこと。


それを聞いたユウタは初めてレッドの人間性に触れたのだった。


「レッドは——僕の苦しみや悔しさや悲しみを感じて助けてくれたってことなのか」


『一志』はうなずく。


 おそらくそうなのだ。


 天目石あまめいし家を飛び出した彼女は、彷徨さまよった挙句に鬼の気に惹かれていくつかの『反魂玉』を手に入れた。


 それを持ったままこの街に流れ着き、ユウタの死に際に出会い『反魂玉』を与えた。


『君の心残りを自分の後悔と重ねて、今一度の生を与えたのだろう』


 こくりとうなずくユウタの姿に落ち着きを見て『一志』も軽いため息をついた。


 だが『一志』の中には一つの懸念がある。


『反魂玉』を使った者は心残りを解消しなければ、魂の自由は訪れない。


 ——あるいは『反魂玉』の破壊か?


 そのどちらも『一志』は躊躇せざるを得ない。なぜならユウタの心残りは復讐だからだ。そして無理矢理にユウタの体内の『反魂玉』を破壊するのもためらわれた。


 ——なぜこんな過去が生まれた?


 厄介な、と思わざるを得ない。


『一志』の記憶では高二の二月といえば、美紅みく美羽みうとそれぞれの別れを終えて失意の中にいたはずだ。


 ——そう、そういえば……!


 鎌倉時代から帰って来たすぐ後に、『鬼丸』までもがいなくなったのだった。すぐに戻ってくると思っていたのに、一週間、一ヶ月と『鬼丸』は戻らず、『一志』は不安を振り切るように受験勉強に没頭した——。


『一志』は今、手の中にある『鬼丸』に目をやった。


 今回は『鬼丸』がいる。


 ——俺の知ってる世界線とのズレがある。


 その理由は『鬼丸』がいるということ。『一志』は『鬼丸』をグッと握りしめた。





 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る