第200話 核心と確信

「レッド!」


 初めて見るレッドの惑乱した姿にユウタもまた驚きを隠せない。


 いつも無言で自分の命令に従うレッド。


 どんな相手にも無敵の強さを誇るレッド。


 そのレッドが、声を上げて逃げ出したのだ。


「……なんで……?」


 レッドが飛び去った空を見つめながらつぶやいたユウタの腕を、曲垣まがきが強く掴んだ。驚いて振りほどこうとするが、体格差はどうにもならない。


「離せよ!」


「——なるほど。お前にはああいう能力は無いんだな」


 空から舞い降りてきた時はレッドにつかまってやって来たのだろう。ユウタの手も蒼牙そうがに変化する気配は無い。


「離せってば!」


『少し、お前と話がしたい』


 曲垣とユウタの前に近づいてきた『一志かずし』はそう言って新宿の幽霊に話しかけた。




「だからってなんでこの店なんだ?」


『理由を知ってて尚且なおかつ安全だからだ』


 結局、ユウタを連れて全員で『金糸雀かなりあ』に戻る。店長のマヤはほっとした顔で皆を迎えてくれた。いそいそとグラスを並べて明るい緑色のシロップと炭酸水を注いだ。それに手早くバニラアイスを乗せると、目を輝かせたオペラが自発的にウエイター役に就く。


 目の前にクリームソーダを置かれた曲垣が

 珍しげに眺めながら、ひと時の平和を感じてつぶやいた。


「レッドがいなければ安全ってことか」


 ようやく解放されたユウタは、不貞腐れた顔でカウンターのスツールに腰掛けた。


「大丈夫?」


「気にしないでよマヤ姉さん」


 ユウタは黒いキャップを脱いでカウンターに置くと、椅子を回転させて『一志』達の方に向き直った。


「で、何を聞きたいってんだ?」


『お前の知る限りのすべてを知りたい』


「全て、ね。だけど僕よりも君らの方がレッドに詳しいみたいだったよな。僕は彼女の本名さえ知らなかったわけだし」


 レッドが『かなめ』と呼ばれた事を思い出しながらユウタは卑屈に笑った。それを咎めるような目で制して、『一志』は自分の推測を述べる。


『おそらく彼女は記憶を失くしたのだ。正しい使い方をしなかった『反魂玉』は彼女に鬼と同じような能力を与え、記憶が混乱した彼女は姿を消した』


 それが昭和七年の話。


『だがいんの気にひかれてこの街や似たような場所を訪れたのだろう。そこで幾つかの『反魂玉』を見つけて手に入れた』


『反魂玉』に執着するのは鬼の気がかなめを呼んだのだろう。


『それから時がたち、二十年前に君と出会った。死にかけていた君に手持ちの『反魂玉』を与えたのだろう』


 ユウタはこくりと頷いた。


「僕がレッドに初めて会った時、レッドは今と違って話が出来た。と、言ってもほんのわずかな間だったけど」


 ユウタは思い返す。





 つづく

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