第197話 逃走


 鋭い口笛の音に、赤いダッフルコートのレッドは首を巡らせた。目の前にいる『一志かずし』など気にも止める様子もなく、ぱっと駆け出す。


『あっ……なんだよ、俺には興味も無いってことかね』


 レッドの後を追い、愚痴りながら『一志』も走り出す。


 追いかけながらレッドの動きを観察する。


 レッドは迷いなく、口笛を吹いたユウタを目指して走っているらしい。


 ——まるで主人に忠実な犬みたいだ。


 レッドは走りながら右手を鋼鉄の爪に変化させていく。それを見た『一志』は、ユウタのそばにいる曲垣まがきに向かって叫んだ。


『レッドが行くぞ! 離れろ!』


 その叫びと同時に、レッドが黒木めがけて跳躍した。





 黒木は背後の騒がしさに振り向いて驚愕した。


 明らかに巨大な刃物を手にした赤いコートの人物が自分めがけて飛んでくるのだ。


「うわっ!」


 あまりのことに黒木はユウタを手放して地面に転がって逃げる。放り出されたユウタも転がりながらその場を避けると、スックと立ち上がる。


 レッドが着地と共に地面に蒼牙そうがを突き立てた。


 硬いはずのアスファルトの道路が粉々に砕け散る。その破片を受けながら、黒木が慌てて的場まとばに詰め寄る。


「なんなんだコイツは!?」


「し、知らな……」


 実際に的場は訳がわからないのだ。


 片田ユウタの亡霊を認めても、レッドのことはよくわからない。混乱のあまり、的場は突然、反転して黒木に背を向けるとパッと走り出した。


「あっ、待て!」


 あんな化け物とやり合うなんて、割に合わない仕事だと考え直しながら、黒木は逃げ出した的場の後を追った。


——金ヅルだけは長さねぇよ。



つづく

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