第196話 ユウタの口笛


 ——おいおい、子どもを始末しろって……コイツヤバいクスリでもやってんじゃねえだろうな。


 黒木くろきは依頼人を冷めた目で見下ろすと曖昧な笑みを浮かべた。


 なんと言っても支払いの良い上客だ。


 護衛の初日にターゲットと出くわすなんてツイている。コイツを捕まえて、二度と近づかないようにシメておけば、護衛料の百万円は一日で手に入れたことになる。


 悪くない話だな。


 黒木はユウタの手首を掴む手に力を込めた。


 そこへ——。


「その子を放してもらいたい」


 木刀を構えた青年が低く言い放った。





「あ? 何を言ってんだ小僧」


 黒木は凄みをきかせて木刀の青年を睨んだ。が、青年——曲垣まがきは無表情のままだ。


 むしろぶら下げられたユウタが驚いていた。


「なんでお前が……僕を……」


「……俺たちはお前に用がある。それに、これ以上お前に罪を犯せたくない」


「……ばっかじゃねえの」


 ユウタはふっと帽子の影で顔を隠すと、甲高かんだかい口笛を鳴らした。ついでに相棒の名を呼んだ。


「レッド!」




 つづく

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