第190話 利用するのはお互い様か
グラサンが誰かに電話をかける。僕ら四人は派手シャツと共にそれを眺めていた。
「お前、マジメにやってんのか?」
派手シャツがオペラに向かってつぶやくように聞いた。オペラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつも通りのニヤケ顔に戻ると調子良く答えた。
「もちろんだよー。今度高卒の資格取るんだ」
「そっか、よかったな」
しみじみとした返事は、きっとそれを手にしてこなかった派手シャツなりの感想なんだろう。
そこへ電話をかけ終えたグラサンが振り返って声をかけ来た。
「
「ありがとう。教えてくれたら、あとは自分たちでやるから」
それにしても土曜日の昼間に何しにきてんだろう?
「ボディガード代を払いに来たそうで」
なるほど。
ん?
ということは——。
ボディガードがついているってことじゃないか?
派手シャツとグラサンに案内されていくつかの路地を曲がると、急にオフィスビルの並んだ場所に出た。グラサンがそのうちの一つを指して言う。
「お、ちょうど出て来やしたね」
「あの人?」
「ええ」
グラサンが教えてくれたのは中年の男性で、少し猫背だが至って普通の人だった。休日なので黒のスラックスにグレーのパーカーとカーキ色のアウトドアコートというラフな格好だ。何かに怯えたようにキョロキョロと周りを見回している。
すぐそばにはガタイの良い男が一人付き添っている。コイツがボディガードなんだろう。
「あいつは
僕のこと買い被りすぎじゃない?
そのままの僕じゃ絶対に勝てない相手だよ。
そう思っていると、
「その言い方だと、あんたは黒木ってヤツに好感を持ってないようだな?」
グラサンは、的確に二人の関係を見抜いた曲垣くんに感心した。
「ほっ、そんなことにも気がつくのかい? さすがはアニキの子分だな」
「誰が子分だ!」
曲垣くんがキレる。
「まあまあ、曲垣くん」
「お前も何か言ってやれ!」
曲垣くんはなだめた僕にも悪態をつく。
「ま、あながち間違ってやしないんすよ。俺たちにも派閥ってのがあってね」
グラサンはいつもかけっぱなしだったサングラスを外して節目がちにつぶやく。言葉を切ると上目遣いにこちらを見た。
そこにあるのはさすがに眼光鋭い、はぐれ者の目だ。
「俺たちゃ下っぱですがね、やっぱり合わねえヤツってのはいるもんです。はやい話が、俺たちは黒木が護衛の仕事を失敗すりゃ
「失敗するってことは、例の二人組があの人を襲うってことじゃないの?」
「ま、そうなりますかね。でもアニキ達も用があるのはその二人組なんでしょ? 黒木がやられた後でその二人と話をすりゃええでしょうが」
グラサンは底意地の悪い笑い方をすると、再びサングラスをかけた。
どうやら僕らは彼らを利用しようとしたけど、逆に利用されることになったらしい。
つづく
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