第174話 ヨウコさんに起きた出来事3

 ヨウコさんの話に聞き入っているうちに、僕のソフトクリームは半ば溶けてしまい、曲垣まがきくんのコーヒーは冷めてしまった。


「どう思う? たかむら君」


 ストローをくわえながら、オペラは話を促した。


 どう思うって聞かれても……これは殺人事件の現場を、ヨウコさんが目撃した話ではないのか?


「警察には言ったの?」


 僕の質問に、ヨウコさんはふるふると首を振って否定する。


「私、まだ十五だから——バイトがバレるとマズいんです」


「十五!?」


 年下じゃん!


 それにその歳でそんなお店で働いているなんて、明らかにヤバいじゃないか。


「だが犯人はまだ捕まっていないと言っていただろう? 少しでも早く通報したほうがいいんじゃないか」


 曲垣くんがまともなことを言う。僕もそれに乗っかった。


「そうだよ。警察に言ったほうがいいよ。それだけ特徴があればすぐ見つかるんじゃないかな」


 とはいえ子どもが犯人とは……。


 ヨウコさんの話を全部信じるなら、事故とか正当防衛とかではなく、殺意を持って子どもが凶器をふるったことになる。


 赤いダッフルコートのやつの方は更によくわらからない。だらりと落とした手から膝まで届く刃物みたいな五本の凶器——。


「あ」


 ——僕は見たことがあるじゃないか。


 蒼牙そうがだ。


 鬼の美紅みくや、鬼の力を取り込んだ雪牙丸せつがまるの手が攻撃時に変形して巨大な鋼鉄の爪となり相手と戦うのだ。


 特に美紅の手は青い雷撃をまとい、それを蒼牙と呼んでいた。


 僕はふるふると頭を振る。


 そんなはずない。鬼がこの街にいるなんて……。


 だけど襲われた人の傷口の描写は蒼牙の攻撃跡に似ている。


 でも……。


 僕の考え込む様子を見て、曲垣くんが声をかけて来た。


「どうした?」


「うん、ちょっと……あ、ヨウコさん、それで僕らに相談したいことってそのこと?」


 目撃したことを相談したいなら、やはり警察に行くしかないだろう。ところがヨウコさんは首を横に振ると口を開いた。


「そのこともあるんですけど、実は私見つけちゃったんですよね」


「何を?」


「あの男の子と赤いフードを被った人の居場所」





 つづく

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