第175話 ヨウコさんに起きた出来事4


 ヨウコさんは事件の後、逃げるようにお店を辞めたのだけど、家には戻らなくて新宿の街を仲間とうろうろしてしていたらしい。




「だ、だめだよ。うちに帰りなよ」


「だって帰りたくないんだもん」


 僕が思わずそう言うとヨウコさんに反論された。オペラが彼女をなだめると話の続きを促した。ついでに僕にも釘を刺す。


「誰にだってジジョウがあるでしょ」


 それは、そうなんだけど……。




 事件から三日ほどたったその日、ヨウコは夕暮れ時に一人でフラフラと歩いていた。ギラギラとした照明が付き始め、その騒がしさから逃れるようにふと路地の入り口を覗き込むと、赤いダッフルコートの後ろ姿が目に入った。


 その少し前をキャップを被った少年が歩いてる。


 ——あの二人だ!


 反射的にヨウコは物陰に隠れた。


 二人はヨウコに気がつく様子もなく、路地を歩いて行く。離れて追いかけながら、ヨウコが見ていると、やがて二人は古びたビルの中に入って行った。


 そのビルの前まで行くと、三階まで小さなスナックかバーのような店が入った雑居ビルだというのがわかる。


 ヨウコは大胆にも二人の後を追った。


 足音を殺しながら二階へ進むと、ちょうど店の一つのドアが閉まったところに遭遇した。


 小さなスナックのようだ。


 黄色地に黒いデザイン文字で『金糸雀カナリヤ』と店の名前が書かれた小さなライトスタンドの看板が出ている。


 二人がここへ入ったのは間違いないようであるが、確信が欲しくて、ヨウコはその店のドアを押した。



 つづく

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