第169話 オペラの悪ノリ

 新宿駅——。


「そんなにオドオドしなくても大丈夫だよー」


 うるさい。


 僕にとっては未知の世界なんだから慎重になってもいいだろ。それにたくさんの人、人、人……。めっちゃある乗り換え案内……。


「迷いそうだな」


 曲垣まがきくんもきょろきょろと辺りを見回してる。


「こ、ここで一番頼りになるのがオペラだなんて……」


「こっちこっち!」


 慣れた様に白とグレーのタイルの構内を進んでいくオペラを見失わない様に慌てて追いかける。人の波を縫う様に追いかけていくうちに、いつの間に改札を出て、さらに外に出ていた。


 なんか街の匂いが違う。


 微妙なその匂いを感じて僕はそこはかとない不安を感じたのだった。





 オペラの案内で待ち合わせしているというカフェまで歩いて行く。


「うわ、なんかすごい」


 身構えているのもあるけど、すれ違う人みんながあやしく見えて、思わずバッグに手をやる。それを見たオペラが笑った。


たかむら君、怖がり〜。別にられないって」


 そりゃあ、お前の財布を盗る奴はいないだろうけどさ。


「曲垣っちがいるから大丈夫だってば。見た目が怖いもん」


「曲垣っちって……」


 いつの間にそんなに仲良くなったんだ。


「勝手に変な呼び方するな」


「え〜。いいじゃん」


 どうやらオペラが勝手に呼んでいるらしい。


「じゃあ、マガピー」


 曲垣くんの眉がピクッと動いた。


「絶対、許さん」


マガピー」


「やめろ」


 あわわ、なんか曲垣くんが怒りそう。僕は二人の間に割って入った。


「そーこーまーで! ほら、紫堂しどう、ここが待ち合わせの店じゃない?」


 僕が指差す方を見て、オペラはこくんと頷く。


 少し店の様子を見た後、黒のジャージのポケットから出したスマホの画面をいじり始めた。


「あ、ヨウちゃん? ついたよー」


 電話だ。


「あ、いる? 今行くね」


 オペラの友達は店の中にいるみたいだ。オペラは通話しながら店に入って行く。僕と曲垣くんは顔を見合わせると頷きあって彼の後を追った。




 つづく

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