第168話 意外な行き先

「今日も刀を持って来たの?」


「馬鹿いえ、稽古の日じゃないだろう。今日は木刀を持って来た」


 曲垣まがきくんは至極真面目な顔で答えてるが、木刀を持ち歩くのも普通ではない。


 るんるんと飛び跳ねて歩くオペラの後を追いながら、曲垣くんと僕はそんな話をしている。


「ところでどこへ行くんだ?」


 曲垣くんが疑問を口にする。


 気がつけば賑やかな駅前まで来ていた。数年前に建て替えられた駅は未来的なデザインで、近くの商業施設が可哀想なくらい古く見える。


 この辺で待ち合わせなのだろうか?


紫堂しどう、どの辺で待ち合わせなの?」


「えー、新宿」


「そう、新宿……って何それ聞いてないよ!」


「言ってなかったっけ?」


 きょとんとして大きな瞳で見てくる。


 くっ、可愛らしさで誤魔化そうとしても無駄だぞ。僕はのどか姉ちゃんではない。


「前に世話になった友達、まだそっちにいるんだよ。駅のそばだからすぐ終わるって」


「こっちは新宿なんて行ったこと無いんだよ!」


「大丈夫だよー。新宿湘南ラインで一本じゃん」


「いやでも、そ、そうだ! 曲垣くんも嫌かもしれないだろ!」


 そこでチラリと曲垣くんを見ると、いつもの無表情で「別に」と返して来た。


 ダメだ。これは行く感じだ。


「決定ー! さ、たかむら君行こうよ!」


「えー! 心の準備が……」


「電車の中でととのえればいい」


 なんで曲垣くんまでノリノリなんだ!


 わけのわからないうちに二人に連れられて、僕は駅の改札に吸い込まれていった。




 つづく

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