第166話 何気ない日常が物足りないわけじゃないけど



 その日、学校から帰った僕に神妙な顔をした紫堂しどうオペラが顔を出した。


「どうした?」


「んー、ちょっと……今いい?」


 オペラは自分のスマホを手にしながらおずおずと切り出した。


「昔の友達から連絡来たんだけど、困ってるみたいでさ」


「ふうん」


「ちょっと会いに行きたいんだけど、一緒に行ってくれないかなーなんて」


 珍しいこともあるもんだ。特にのどか姉ちゃんじゃなくて僕を頼るとはなかなかに見所があるじゃないか。


 どうせヒマだからいいけど。


 頼られたことが嬉しくて、僕は呑気に返事した。


「いいよ。いつ?」


「明日、土曜日。どうかな?」


「うん、わかった」


 適当に返事をした僕に、あんな事が起きるとはその時は誰も知らなかった。





「たっかむら君! 準備できたぁ?」


 ピンクの髪を綺麗に整えて、いつもの黒ジャージ姿の紫堂オペラが僕の部屋まで迎えに来た。どことなくいつもより派手な印象を受けるが、昔なじみに会いに行くのだから気合を入れて身だしなみを整えたのに違いない。


「いいよ。行こうか?」


 僕はのどか姉ちゃんから誕生日に貰ったボディバックを手にして立ち上がった。


一志かずし! わしを置いていくのか?』


『鬼丸』がぴょんぴょんと飛び跳ねてお出かけアピールをして来たが、連れていく気はない。


「用もないのにお前を持ち歩けるわけないだろ」


『つまらん、つまらん!』


 そのうちねてしまいそうだ。かわいい仔犬とかだったら連れて行けるのだが。


「今度な、今度!」


 そう言って僕は部屋の戸を閉めた。




 つづく

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