第161話 また一人、家族が減った寂しさと

「——というわけで、美羽みうは向こうに残ることにしたんだ」


 僕と曲垣まがきくんは客間の大きな長机を挟んで母さんとオペラにことの次第を説明していた。ちなみにのどか姉ちゃんは大学に行ってて居なかった。


 ベッドの上に帰還した僕らの薄汚れた変な格好を見て、オペラが騒いだのはいうまでもない。頭には手拭いを巻き、着ていた現代の服と鎌倉時代の着物を合わせた妙な姿だから仕方ない。


 そこから支度してもらった風呂に入ると生き返った気分がした。やっぱ現代はいいな。


 曲垣くんに僕の服をかして——多少サイズが合わないのは致し方ない——さっぱりした姿になって母さんとオペラに報告をしたのだった。


 母さんは僕の話を一通り聞くと、一度席を外してお茶とお菓子を運んできた。机の上に菓子皿とお茶が出されて、僕は久しぶりの甘味に飛びついた。


 松露しょうろというお菓子でこっくりと甘い餡子がたまらなくおいしい。


「曲垣さんもどうぞ召し上がってくださいな」


「いただきます」


 はっ!


 曲垣くんの礼儀正しさが際立ってしまう。いや、僕の意地汚さが出てしまった……。


「い、いただきます……」


 遅れて僕がもごもごと呟くと、向かいの席でオペラが笑った。


「それで、美羽っちはもう戻ってこないの?」


「うーん、わからない」


 こればかりは僕にはさっぱりわからない。其角きかくさんの方から会いに来てくれればいいんだけどな。


 母さんが僕の言葉を聞いて、深いため息をついた。『鬼丸』がある限り、突然の別れはつきものだ。その寂しさを一番よくわかっているのが母さんである。


「とにかく、あなたたちが無事に返って来てくれてよかったわ」


 ……そうか。志乃しの姉さんのように帰ってこないこともありるのか。母さんの言葉に心底ほっとした安堵感を感じて、僕は現代に戻れて良かったと思った。


「美羽も、母さんと過ごしたこと感謝してたよ」


「そう…。私も美羽さんがいて楽しかったわ。そう伝えられなかったのが口惜しいけれど」


「大丈夫だよ。美羽はわかってるさ」


 母さんは少し涙目で——それでも少し微笑んだのは、美羽の旅立ちを喜んだからだろう。


 隣にいるオペラは納得いかない顔で僕らを見つめている。後でちゃんと説明しなくちゃな。


 ……オペラは鎌倉時代って知ってるかな?



つづく

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