第159話 絶対また会えると僕は信じてる


 うたげの次の日の朝、いよいよ僕と曲垣まがきくんは現代に帰ることにした。早朝だったので、昨夜の宴で疲れている里の人たちはまだ休んでいた。


 なので其角きかくさんの小屋の前にいるのは僕と曲垣くん、それと其角さんと美羽みうだけだ。


「いいのか? 皆に挨拶もせずに帰っても」


 其角さんは念の為に僕に聞いてくる。


「うん、昨日の夜、挨拶したからいいよ」


 曲垣くんも無言で頷いた。


 彼は白木しらきの鞘の刀を左手に携え、僕は黒鞘の『鬼丸』を手にして送られるのを待っている。


 其角さんが名残なごり惜しそうに僕を見た。


「其角さん、またいつか会えるよ」


「うむ……そうだな。こちらから会いにいくかもな」


「そうしてよ。待ってるからね」


 僕は『鬼丸』を自由自在に操れるわけではない。其角さんが時を超えて会いに来てくれる方が再会のチャンスは多い。


 僕は黙ったまま俯いている美羽に声をかけた。


「美羽も元気で。母さんにはちゃんと伝えておくよ」


 美羽は顔を上げて僕を見つめる。今にもこぼれ落ちそうな涙を浮かべて、美羽は小さく「うん」と答えた。


「また会えるよって言ったばかりなのに、泣くなよ」


「うん、うん……一志かずしも元気でね。……お母さんにもお姉ちゃんにもオペラちゃんにも、私のこと伝えてね」


 彼女が頷くたびにきらきらとした涙がこぼれ落ちる。せつなくて寂しくて見ていられなくて、僕は其角さんを促した。


「其角さん、お願いします」


「では一志、ゆくぞ」


「はい」


 両手を差し出した其角さんのその手に、僕と曲垣くんはそれぞれ手をのせる。


 ぐらりと空間が歪み、目眩めまいのようなものに襲われる。


「其角さん、美羽をお願いします!」


 僕は最後に叫んだ。


「ああ、任せてくれ!」


 力強い返事が返って来る。


 美羽もお別れの言葉を叫んだ。


「一志、曲垣さん、会いにいくからね!」


派手女はでおんな——いや美羽……さん、待ってるからな」


「美羽、幸せに——!」


 僕の願いを込めた言葉を最後に、僕らはぐるぐると回る空間に飲み込まれた。





 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る