第157話 君をあの人に託していくよ

 美羽みうがここに残ると言い出したことと、曲垣まがきくんが刀を手に入れたこととで、僕の中で一つの結論が出た。


 きっとこのために僕らはここへ来たのだと。


 だから僕は其角きかくさんにこう切り出した。


「其角さん、僕と曲垣くんを元の時代に飛ばして」


「なんだ、急に」


 其角さんは驚いて目を丸くした。


「『鬼丸』はたぶん其角さんと居ると、出て来れないんだと思う」


 おそらく同じツノが同じ空間にあるということが『鬼丸』の力を封じているのだ——と思う。


「私はもっとここにいて欲しいが……」


 そんなことを言われては決心が鈍る。僕はみんなと一緒にいたい気持ちを抑えて頼んだ。


「何のためにここへ来たか、わかったんだ。曲垣くんをが刀を手にするためと、美羽を残していくためなんだ」


「美羽を置いていくのか?」


 其角さんはもっと驚いた顔をした。てっきりみんなで現代に帰ると思っていたんだろうな。僕だってこうなるとは思わなかったよ。


「其角さん、美羽をよろしくね」


「よろしくと言われても……」


「『鬼ヶ島』ではさ、ずっと戦ってばかりだったでしょ。美羽も其角さんも」


『鬼ヶ島』で二人が共に過ごした時間は行き詰まる日々ばかりだったはずだ。だからこれからはもっと穏やかに一日一日を共に過ごして欲しい。


 平和な日常の中で、美羽がどんなふうに笑うのか、どんなことを楽しむのか、其角さんに見てもらいたかった。




 ——美羽が想いを寄せる其角さんに、ほんとの彼女を見てもらいたかったんだ。





 つづく

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