第156話 僕と美羽と、ほんとの気持ちと


「ここって……この時代ってこと?」


 嫌な予感が当たって驚いたのと、美羽みうの希望を聞いて驚いたのとで、僕はつっかえながら聞き返した。


「うん。美紅みくがいた時はね、美紅がすごく一志かずしの時代に行きたがって、私も面白くて一緒に楽しく過ごしてたんだけど……」


 美紅がいなくなったことが、一番の原因なんだろうか?


 僕は美羽を引き止めたくて説得しようとした。


「だ、だけど美羽が急にいなくなったら——母さんも寂しがるし、姉ちゃんは……アレだけど、オペラも泣いちゃうかもしれないし、僕だって——!」


 僕?


 僕ももちろん寂しい。


 だけどその心配する気持ちの奥の方に、僕は別の気持ちがある事に気がついてしまった。


 僕は——。


 僕は美羽がいなくなったら美紅に本当にもう二度と会えない気がして、それで引き止めているんじゃないだろうか?


 僕が会いたいのは、美紅?


 だけど美紅はもう居ない。


 その依代よりしろとしての美羽にそばにいて欲しいだけなんじゃないだろうか。


 言葉に詰まった僕を前にして、美羽はいつものように優しく笑った。


「もう一人の『一志』がね、私に言ってくれたの、私は私の望む選択をして欲しいって」


「……そう……なんだ。美羽の望む選択を、が薦めたんだね?」


『僕』は知っていたのだろうか?


 美羽の望む事を。


「美羽はここに残りたいんだね」


「うん。ここに残って、其角きかく様を手伝いたいの」


 ああ、そうだった。


 僕は直視しないようにしていたけど、美羽はずっと前から其角さんのことを——。


「そうだね。それなら僕も安心かな」


 思ったよりもダメージが少ないのは、僕の中に別の人への想いがあるからだろう。僕は素直に安心できると伝えられた。


「えへへ、一志にそう言ってもらえてよかった」


「もちろんさ! これで其角さんの護衛はばっちりだね! 安心だ!」


「えー? それ、どう言う意味?」


 僕の軽口に、美羽は頬を膨らませて抗議した。その顔も可愛いな、と一抹の寂しさと共に思ったのだった。



 つづく

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