第155話 嫌な予感は足早にやって来る


 曲垣まがきくんの刀は研ぎ上げられ、とりあえず仮の白木しらきつかをつけられて白鞘しろざやに納められた。白木の鞘は急拵えだけど割と似合っている。曲垣くんにも其角きかくさんの作った刀にも似合っているという意味だ。


 刀をもらった曲垣くんは早速僕の前で刀身を見せてくれた。


 白銀のやや細身の刀身は陽の光にきらりと光って、その様は冷たい冬の空気とよく似ていた。


「綺麗な刀だね」


「ほう、お前もわかるか?」


「いやぁ、僕が言ってるのはほんとに見たまま言ってるだけだから」


「だろうな」


 曲垣くんのいつもの話し方に思わずズッコケる。相変わらずだなぁ。


「ま、綺麗なわけだよな。誰も使ってないからな」


「と言うことは、曲垣くんがこの刀の初めてのオトコ……」


 僕の軽口に曲垣くんは白木の鞘で乱暴なツッコミを入れて来た。身をそらしてよける。僕もだいぶ彼のツッコミに慣れてきた。


 僕らが其角さんの前でそんなことを話しているとちょっと緊張した面持ちの美羽みうがやって来た。


 美羽もあの電撃を放った事件以来、里や刀鍛冶の人達に一目置かれている。


 まるで女神様のような扱いだ。おかげで前よりも食糧事情が良くなったのはありがたいことである。本人は恥ずかしがって逃げてまわってるけど。


「あのね、一志」


 その一言に、僕は嫌な予感がした。


 僕の返事を待たずに、美羽は話を続けた。


「あのね、私……ここに残りたい」




 つづく

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