第154話 曲垣くんも鈍いところがあるんだな


「これは……!」


 僕らが驚くと、其角きかくさんは少し恥ずかしそうに微笑んだ。


「刀の元になるかしから火おこしまでを藤十郎がやって、その後の本打ちを私がやったものだ」


 陽の光を受けて、白く輝く刀は其角さんらしい凛とした佇まいだった。


「まだ鍛治押しまでしかしていないが、どうだろうか?」


 鍛治押しというのは、焼いた刀をカンカン打った後に水にジュッとつける奴の後に刀鍛冶が自分で研ぐことだ。


 もちろん曲垣くん情報である。


 なので其角さんが今携えている刀は薄曇りのような白さをまとっている。これから研師とぎしに研いでもらうのだろう。


 そして、其角さんは曲垣くんに向かってこの刀は「どうだろうか?」と聞いている。


 つまり——。


 この刀は曲垣くんへの刀なのだ。


 僕もどきどきしながら曲垣くんの顔を見る。彼は少し戸惑ったみたいだけど、やがて口を開いた。


「——良い刀だと思います。も綺麗だし、研いだところも見てみたい、です」


「尺は合っているか? 二尺三寸と少し——」


「?」


 曲垣くんは首を傾げた。まだ其角さんの考えが伝わっていないようだ。


「曲垣くん、其角さんは曲垣くんの身長に合ったサイズか聞いてるんだよ」


「えっ?」


 曲垣くんは刀に再び目をやると、ついで其角さんの顔を見た。


 其角さんはわくわくした顔で彼の返事を待っている。曲垣くんは目を見開くと、驚いているのか声を震わせながら確認した。


「あの……本当に俺が使っても——?」


 其角さんはにっこりと微笑むと、「もちろん」と答えた。


「試しに作った刀で良ければ、だが」


「そんな! 嬉しいです。俺、真剣は持ってなくて……でもコイツより先にいただいていいんですか?」


 曲垣くんは僕にも気を遣っていたらしい。


「僕は後で『鬼丸』を作ってもらうからいいんだ」


「そうか。では其角さん、刀をいただきます」


 良かった。曲垣くんはとても嬉しそうだ。この白い刀はこれから研師に研いでもらって、銀色の刃を持つようになるそうだ。


 ——これが曲垣くんが飛んだ理由なのかな。


 なんて僕は一人で納得した。





 つづく


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