第152話 みんなの態度が前と違うぞ


 今日も刀を打つ音がする。


 しかも今日は昨日の騒ぎで打ち損なった刀を元に、其角きかくさんが練習しているのだ。こっそり覗きに行ったところ、力が入りすぎて怒られている其角さんを見てしまった。


 鬼だから仕方ないんだろうけど。


 あれから曲垣まがきくんはあまり口をきいてくれない。美羽みうは美羽で心ここに在らずと言った感じで、なにか考え込んでいる。


 僕は僕で今まで通り集落の手伝いをしようとしたのだけど、人々からお手伝いを遠慮されてしまった。


その理由はわかっている。


 どうも彼らには僕がものすごい剣の使い手に見えたらしく、「剣士様にそんなことはさせられない」と、前にこき使われたのが嘘みたいにヒマになってしまった。


「刀を使えるのは僕じゃないんだけどな……」


 一人でぶつぶつ言いながら歩いていると、向こうから木刀を手にした曲垣くんがやって来た。しかも二本の木刀を持っている。


 曲垣くんは僕の前でぴたりと止まると、無言で木刀を突きつけてきた。


「稽古?」


 ちょっと嬉しくなって声がうわずる。嬉しそうな僕をみて、曲垣くんはちょっと目を見開いた。


 なんかこの頃わかってきた。


 曲垣くんは無愛想で無表情が多くて僕から顔を逸らす時が多いけど、その鉄仮面の下には実は思ったよりたくさんの感情があって、ほんのちょっとの仕草がそれを表している——たぶん。


 それを実感してにやにやする僕を見て、曲垣くんは言った。


「何がおかしい?」


「いや、曲垣くんって優しいよね」


「何が?」


「僕を稽古に誘ってくれるところとか」


 僕がそう言うと、彼はそっぽを向いた。


 ——これは照れているのか?


 笑うのをこらえながら曲垣くんを見ていると、


「……別に。頼まれたからな」


 と返ってきた。


「頼まれた? 誰に?」


「教えない」


「曲垣くんのケチ」


「うるさい。これだけは絶対に教えん!」





 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る