第151話 誰かちゃんと説明してくれよ
僕でない『僕』が
今回はぼんやりと霞がかった景色で『僕』の行動を見ていた状態だった。だから全く何も知らない状態ではなかった。会話は聞こえなかったけど。
強い『僕』の動きを感じられるのは居合の時に役立つので、僕にとっては身体を使われるのはマイナス面だけとは思ってない。
何よりピンチに現れてくれるからね。
「みんな無事で良かった!」
「……」
「あれ? なんで
「うるさい」
曲垣くんはいつもの仏頂面に加えてそっぽを向いた。
「なんで? アイツなんか言った?」
「言ったが教えない」
「なんでー!? 知りたい!」
「うるさい! お前は知らなくていい」
「曲垣くん、怒ってる?」
「怒ってない!!」
曲垣くんは結局、ぷんぷん怒って行ってしまった。
後に残された僕は美羽の方を向く。美羽はぼんやりと宙を見つめていて、何かを考えているようだった。
「美羽?」
「……あ、一志」
「どうかした? あの侍達はやっつけたみたいだったけど」
「ううん、違うの。今、『一志』に言われたことが気になって……」
僕?
僕はなんて言ったんだろう?
確かに意識が身体に戻る直前に『僕』は美羽に何か語りかけていた。
「なんでもないの」
美羽はまた考え込むような顔をすると、曲垣君と同じようにどこかへ行ってしまった。
「もう、二人とも……もうちょっとなんか教えてよ!」
詳しいことがわからない僕は心配になる。
『僕』は何を言ったのだろう?
僕が頭を抱えていると、
「小僧! ようやった! お前があんなに刀を使えるとは思わなんだぞ」
「あれは……僕じゃないんです……」
「なに? お主じゃろう?」
不思議そうな顔をする藤十郎さんに、僕は時々そうなるのだと打ち明けた。今まで危機を救ってくれた現象なんだけど、本体の僕が覚えてなかったり、あるいは映像だけ見えてたりと不安定な状態も伝えた。
「ふむ。まあいいわい。わしらも助かったからのう」
いいんかい。
藤十郎さんは髭をなでなでしながらニヤリと笑った。
なんだ?
「なに、お前さんのおかげでゆっくり刀を打つ時間ができたってことじゃ」
「それは、良かったです」
「そうか。では、行くぞ其角」
「はいはい」
其角さんも笑顔だ。
「実はね、あの作りかけの刀を私が打ってみないかと藤十郎が言ってくれたんだ」
「えっ! 其角さんが打つの?」
「ああ、練習でね。そしていつか『鬼丸』を打つよ。そう決めたんだ」
其角さんの気持ちが、「打つかもしれない」から「打つよ」に変わった。
「やっぱり、『鬼丸』は其角さんが作るんだね……」
そうなんだ。
そしていつか、其角さんの
僕はいつか来るその日を思い描いて、胸が熱くなった。
つづく
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