第148話 馬蹄の響き

『……ったた……俺の出る幕が無いじゃないか……』


 美羽の最大出力の雷撃は、一志かずしに襲いかかった侍達の刀に落ちた。一斉に雷撃を受けて、その衝撃で彼らは昏倒している。


 ぷすぷすと薄い煙が上がっているところを見ると、少し着物が焦げているようだった。


『一志』の持つ『鬼丸』は美羽みうの雷撃を吸収したのか持ち主に衝撃は来なかったが、さすがに痺れるような痛みを彼の手に残し、『一志』は一人不満を呟いた。


「やや、あの女子おなごは……藤十郎のとこのじゃないけ?」


「あわわ、雷様の御使おつかいかの?」


 集まっていた集落の人々が口々に美羽を称え始める。そのうち皆がひざまづいて美羽を拝み始めた。


「や、やだー! やめてぇ」


 顔を真っ赤にして恥ずかしがる美羽を其角きかくが微笑ましそうに見ていた。何かあれば彼も飛び出す気であったが、どうやらその必要はなさそうだ。さっきまで緊張していた曲垣まがきも美羽の様子が可笑おかしくてつい笑い声を洩らした。


「曲垣さんまで! 笑わないでよー」


 藤十郎はやや呆れたように、髭を撫でながら「たいへんな女子おなごが来たわい」と呟いた。


 しかしそこへ、重々しい蹄の音が響いて来た。


「馬か!?」


 藤十郎が驚いて馬蹄の響きの方をふり仰ぐ。軍馬に乗れるのは身分の高い者だけだ。つまりこのあたりを治める建部たてべ家の関係者——。


 刀鍛冶の集落の者達は顔を見合わせて不安げにひそひそと言葉を交わす。馬で乗り入れて来るということは正家まさいえと同格かそれ以上の者が来るのだ。


 ということは。


「建部の棟梁、正親まさちか殿が来る」


 渋い顔をして藤十郎はつぶやいた。




 つづく

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