第147話 卑怯なり建部正家


「!?」


 いっせいに襲いかかった侍達は、青い光と共に放たれた青年の一閃に弾き飛ばされた。


 たった一度の抜刀で全ての刀が弾かれ、中にはそのまま後ろに倒れた者もいる。


 先頭を切って切りかかった正家も尻もちをついた。


「——な、なんだ?」


 困惑する侍達の真ん中には、幽鬼の如く薄青い陽炎を見にまとう青年がいる。


 決して強そうには見えない彼は凄みを増していた。抜いた刀は思い切り振り払ったところで止められて、それからゆっくりと正面に向けられる。


 そこにはこの騒ぎの元凶たる正家まさいえがいた。


 今度こそ顔を真っ青にして、正家はガタガタと震え出した。


『声も出ぬか? 俺とて無駄に人を斬りたくはないがな』


 本気だ。


 今までの手合わせの気分は彼からは消え失せて、青い殺気が放たれている。


一志かずし、ダメ!」


 人垣から美羽みうが飛び出した。それを追って曲垣まがきも出て来る。


「危ないぞ、派手女!」


「美羽だってば! それより一志を止めないと!」


 美羽には『一志』の本気がわかった。


 そして彼女は一志が人を真っ二つに斬る所を見たくはなかった。


 強いが故に人を斬らずに戦って来た彼が、怒りに任せて人を斬るなど——してはならぬことだと思った。


「だめぇ!」


 止める声と共に、美羽の最大の雷撃が辺りに放たれた。




 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る