第146話 一難去ってまた一難


たかむら殿」


『なんだ?』


「どうか許して欲しい」


 頭を下げる長忠ながただを見て、『一志かずし』はため息をついた。そもそも鍛冶場に乗り込んできたのは建部正家たてべまさいえである。


『一志』から見れば、長忠は正家より自分の方が剣の腕が立つからと前へ出て来たのだと思えた。


 或いは大衆の面前であるじが恥をかかぬように相手をかって出たのか。


『一志』はすっと殺気を消した。


『いいさ。だが悪いが神刀の件は一度白紙に戻させてもらう。肝心の刀匠達の気持ちが途切れたからな』


「——あいわかった」


 長忠が了承して事が収まったかに見えたその時、正家まさいえが再び怒鳴った。


「何を言っておる! 長忠ァ!」


 長忠は振り返ると諭すように正家に語りかけた。


「まだお分かりになりませぬか? 我らが神事を断ち切ったことに」


「だが、だがそれは此奴こやつらが刀を作らぬから——」


「ただの刀を頼んだのではござらぬ。それを——」


「うるさい!」


 正家は吠えた。


 それを合図に刀を抜いた家来達が、長忠と『一志』を取り囲む。


『ちぇっ、一合で収めたつもりだったんだけどな』


 そう言いながらも『一志』は楽しそうである。黒鞘の刀に手をかけて抜刀の構えを取る。


「よさぬか! そなたらのかなう相手ではない……」


「かかれぇ!」


 長忠の制止も届かず、侍達は正家の号令と共に『一志』に襲いかかった。




 つづく

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