第149話 騒動の終わり

 しばらくして、人を乗せた馬が三騎見えて来た。その後に数名の家人達がついて来る。


 三騎は広場の手前で止まった。


 ひらりと馬から降りたのは正家に似た同世代の青年で、正家まさいえよりもキリリとした顔つきである。


 続いて降りて来たのはもっと歳をとった人物で穏やかそうな眉を持っていた。衣服の上質さからこれが建部たてべ家の棟梁・正親まさちかなのだろう。


 もう一人はいかにも重鎮という風態でおそらく正親の右腕とも言える家臣とみえた。


「久しいな、藤十郎」


「なんの、水島殿」


 藤十郎が水島と呼んだところ見ると、この家臣はどうやら水島長忠みずしまながただの親類であるとみえる。


「それに正親殿まで出張って来るとは、存外大事になりよったかのう」


 藤十郎がとぼけてそう言うと、正親はゆるゆると首を振った。


「なに、わしの目配りが足りなかった。その方らには迷惑をかけたな」


 正親はごく自然に頭を下げた。


 さすがに藤十郎も礼を返す。元々は自分が刀を打つのが遅れたこともある。藤十郎は建部家の棟梁にその件ついて詫びた。


 しかし正親はかえってすまなそうな顔をする。


「あれは——あの奉納する刀の話は、正家が勝手に進めたものでな。わしらの総意ではない。もちろん民のことを思いやってのことだとは思うが、そなたらに皺寄せが行くとは思いもせなんだ」


 と、複雑な親心を滲ませた。


 その様子を見ていた『一志かずし』はふっと息を吐くと、納めた『鬼丸』を手に人混みにまぎれる。あとは藤十郎と正親が話をまとめるだろう。


 其角きかくの小屋にでも戻ろうかと人気ひとけのない方へ足をすすめると、後ろから腕を掴まれた。


「おい、待てよ」


『なんだお前か』


 腕を掴んだのは怖い顔をした曲垣颯太まききそうたであった。



 つづく

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