第140話 一志の中の一志再び

 隣にいた一志かずしの体勢が一瞬がくりと崩れて、曲垣颯太まがきそうたは慌てた。こんな状況で気を失ったのかと思ったのだ。


「おい、お前——」


 声をかけたが、一志は口元に手を当て、もう片方の手で大丈夫だと示す。


『悪いな、こんなことに巻き込んで』


「?」


 いつもの一志の口調ではない。これは一体誰なのだ?


 曲垣が不審に思うと、一志らしき人は戸板から手を離した。盾にする物を手放したのだ。


「おい、危ないぞ」


『ああ。……そういえば、この時間移動はお前のためだったな』


 そう言いながら、『彼』は左手を空に向けて上げた。


 つられてその場にいた皆が見上げると、上空に一人飛び立った者がいる。浅葱あさぎ色の鮮やかな髪をなびかせて、真紅の着物を見に纏い、すらりとした白い脚を覗かせている。


 ゆっくりと人垣の上を飛び越えながら、美羽みうは叫んだ。


「一志!」


 美羽の手から黒い何かが投げられる。


 黒鞘の刀——『鬼丸』だ。


『彼』はそれを片手で受け取ると、目を見開いた。





 つづく

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