第139話 僕らの抵抗


 僕は曲垣まがき君を見た。目が合うと、お互い頷き合った。僕らも懐紙かいしを捨てて前へ出る。土間に落ちていた戸板を二人で持ち上げると、戸の下の方を正家まさいえに向けて走り出す。


「曲垣君!」


「押し出すぞ!」


 驚いたのは正家だ。思わず片手を離して『来るな』とジェスチャーするが、そんなの知った事じゃない。僕らは構わず彼に戸板を押し当てた。


「わわわ!」


 そのまま足をもつれさせながら正家は後退していく。明るい外に出れば、この集落の人たちが皆集まって来ているようだった。それに彼の家来みたいな侍達も大勢いた。


 その人の輪の真ん中に、僕らは突き進んで行った。




「ま、正家まさいえ殿ー!」


 家来けらいらしき人達が飛び出して来て正家の背中を支える。おかげで彼は人前で尻もちをつくという醜態をさらさずにすんだ。


 とりあえず僕らも戸板を盾がわりに距離を取る。


 ざわめく人垣に囲まれて、正家達と僕らは向かい合って睨み合った。


 あちらは十人近くの家来達を連れて来ていた。戦じゃないので、鎧こそ付けていないが、イカつい奴らが揃って刀を抜いた。


 刃先を僕らに向けたまま、半円形状に僕らを囲む。


 圧倒的不利——。


 ——ヤバいな。アレで斬られたら……ワーッ、ヤダヤダ!! 痛いのはヤダ!


 それに曲垣君を護らなきゃ!!——と思った瞬間、僕の意識がぷつんと途切れた。




 つづく

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