第141話 いつものアイツじゃない


『彼』は刀を構えると柄に手をかけた。その自然で流麗な仕草に、曲垣颯太まがきそうたは驚いた。


 絶対にいつものアイツではない。


 構えも立ち方さえも——。


 もっと強者の持つ圧倒的な何か。曲垣はそれを目の当たりにしているのだ。


 ——しかもあの刀は真剣だった。


 曲垣でさえ模造刀しか手にした事がない。稀に先生方のものを見せてもらうくらいだ。


 ——それをアイツが使うというのか。


 そんなことを考えている間に、刀を手にした『彼』に向けたやいばが増えていく。


「曲垣さん、下がって!」


「派手女?」


美羽みうだってば! 一志かずしは大丈夫だからこっちへ」


 美羽に引っ張られて、曲垣は人混みに紛れる。持っていた戸板はその辺に放り捨てた。


「あれはアイツなのか?」


「うん……たぶん」


「たぶん?」


「一志だけどいつもの一志じゃない。それだけ」


 曲垣はそれを聞くと集まっている人をかき分けて一番前に出る。美羽も仕方なく付いて来る。曲垣の袖を引っ張りながら、言いにくそうに声をかける。


「ねえ、あなたがいると足手まといなの」


「なんだと?」


「見てて。すぐにわかるから」




 つづく

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