第136話 刀を造る理由
僕らを包むのはものすごい熱気。
外の寒さが嘘のように、苦しいぐらいの熱気が渦巻いている。
白の懐紙を口に
僕らも額から落ちる汗を拭くこともなく、身動き出せずに藤十郎さんの動きを見つめていた。鉄を打つ音が身体に響く。
その音に合わせて、次第に四角い塊は細長く細長く延びていく。
本当に少しずつ。
僕はこの一振りを作るために、藤十郎さんが込めた思いを知ってる。そのせいか、僕はずっと心の内で応援を繰り返している。
——頑張れ、頑張れ……。
やがて、四角い鋼の塊は細長い形になった。そしてどうやら今日の作業はここまでらしく、無言のうちに神棚に揃って礼をすると、打ち場を出て行った。
僕らも神棚に頭を下げてから、皆の後を追う。戸をくぐると冷たい空気に包まれて心地よい。
外では『儀式』を終えた四人が待っていた。それぞれ口から懐紙を外している。
「また、明日続きをするぞ」
藤十郎さんが宣言したが、少し顔色が悪い。
「無理をするな、藤十郎」
僕らはその後ろ姿を見送ると、其角さんはため息をついた。
「どうも、藤十郎は無理をしている気がする」
「えっ?」
「やる気が出たのは良いのだが、身体がついてきていない。そんな感じを受ける」
そんな身体で、あの暑い工房で力仕事をしたら、もっと体調を悪くするのではないだろうか?
僕がそう言うと、其角さんもうなずいた。
「しかし止めることは出来ぬ。あの刀は奉納されることが決まっていて、藤十郎が
「な、なんで?」
「実は幾度も催促の使者が来ていたのだ。依頼してきたのは
建部正家——。
聞いたこと無い。
「
「俺だって有名な武将しか知らん。そいつは良い
其角さんは曖昧に首を振る。
「父親の
それを自分の手柄にする気だな。
現代から来た僕らは飢饉の原因は天候とか虫の害とかそっちに目が向くけど、この時代の人は神がかり的な方に傾くのだろう。
「無理をしなければ良いのだが……」
其角さんが心配そうに呟いた。
つづく
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