第137話 刀鍛冶再び


 翌日、再び打ち場に曲垣まがき君と入る。今日は『火造り』という、ほぼ刀の形になるまで作業するのだ。


「藤十郎さん、大丈夫かなぁ?」


「大丈夫だ……と思う。今のあの人は気迫に満ちている」


 曲垣君も心配そうだ。それでも曲垣君が言うには、藤十郎さんの目に力を感じるとのことだ。


「居合の稽古をしているとな、先生がたの目を見る時がある。それに似た力強さが見える」


 そうなのか。


 僕はまだ誰かと組んで組み太刀をやったことがないからよくわからない。だけど曲垣君の言うこともなんとなくわかる。


 七段や八段の先生達は優しいのに急にガラッと雰囲気が変わることがあるのだ。


 やがて昨日と同じく、装束に身を包んだ藤十郎さん達が入ってきた。やはり懐紙を口にんでいる。


 僕たちもそれにならって口に白い懐紙をむ。


 ——藤十郎さん、頑張って。


 僕は今日の作業の成功を祈った。




 カン! カン! カン!


 昨日とはまた少し違う音を立てながら、熱気の中藤十郎さんが槌を振るう。


 と、そこへ——。


 突然、閉じられた打ち場の外から、騒がしい声が聞こえて来た。


 この大事な時に、とふいごを踏んでいた手伝いの二人が視線を閉め切った戸の方へ向ける。


 僕も思わずそちらを見た。


 耳を澄ますと、刀を打つ音の合間に確かに人の声がする。それも穏やかではない怒鳴るような大声だ。


 明らかに——藤十郎さんにとっては気持ちを乱す事態だ。


 しかし藤十郎さんは一心に槌を振るっている。


 ふいごを担当している一人が、目で合図して其角きかくさんと代わる。ふいごを其角さんに任せると、そっと戸に近づいた——。


 ドンッ!


 突然、戸が蹴破られた。


「!?」


 現代とは違う薄い戸板が内側に倒れ、戸に近づいていた人が下敷きになる。


「……!?」


 外から冷たい空気が流れ込み、外に熱気が逃げて行く。ちょっとだけ外の空気が心地よいと思ってしまったが、それどころではない。


 藤十郎さんの手が止まった。


 外の光を背に背負い、戸口に誰かが仁王立ちしている。黒いその影は大声で怒鳴った。


建部家たてべけが嫡男、建部正家たてべまさいえである! 奉納する刀を出せい!!」



 つづく

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