第133話 寄り添って寝るなんてしたことないです

 その夜、僕らは寝るのに苦労した。


 布団って呼べるほどのものはなくて、それも其角さんの分だけだったので、それをとにかく炉端に敷いて四人固まって寝た。


 掛け布団の代わりに、藤十郎さんの所から着物を少しと藁を借りてきて身体の上にかけて寝る。炉端の火がぼんやりと部屋の中を照らしている。


 美羽みうは一番炉端に近い所で、その次が其角きかくさん。


 一番、紳士だからな。


 次が僕で曲垣まがき君が一番端っこだ。


「くっつくな」


「だって寒いじゃない?」


 曲垣君がどんどん離れて行く。風邪ひくぞ。


一志かずし無理強むりじいするな」


「そうだね」


「なんか不思議だね。こうやってみんなで寝るなんて初めて」


 美羽は子どもみたいにはしゃいでいる。其角さんに会えたことも、それに拍車をかけているんだろうな。


「……そういえば、其角さん」


「なんだ?」


「今回は曲垣君が『鬼丸』を抜いたんだ」


「ほう?」


「なんで曲垣君でも出来たんだろう?」


 僕が知っている範囲では僕と志乃しの姉さん、それから本人は言わないけど多分うちの母さん——というふうにたかむら家の者だけだ。


「一志がそう思うなら、彼も君の家と関係あるのかも知れないな」


「え? 曲垣君と親戚?」


 わお!


「そうでないならば、鬼の血を引いている可能性もある」


 わお……。


 それを聞いた曲垣君が寝返りを打ってこっちを向く。


「……あの手帳の世界に入った時から考えていた。あの過去の世界が本物なら、俺にはその可能性がある」


「どういう事?」


「俺のひいばあちゃんにあたる人が『反魂玉はんごんだま』をもらった時、説明されていただろう? ひいばあちゃんの母方には不思議な力を持つ人がいて、生き返ったことがあるとか」


「その不思議な力を持つ人って……」


「鬼、だったんだろうな」


 そうか、それなら曲垣君も鬼の関係者だ。『鬼丸』を抜くことも不可能じゃない。


 ——待てよ。という事は、篁家ってもしかして……。


 ちょっと僕の中に疑問が湧いた瞬間、曲垣君が話を続けたのでその考えは消えてしまった。


 曲垣君は、今までそんな不思議な体験はしたことがないし、幽霊も見たことないって言い出した。少し不安そうな声だったので、其角さんがフォローする。


「安心しなさい。君の身体からは鬼の気配はない。人との交わりで、鬼の血はすごく薄まっているから、今更、鬼にはならないだろう」


「お、俺はそんな心配は……」


「ただ、ご先祖に不思議な人がいたと思えばいい。その力以外は私たちとて人とはさほど変わらぬ」


 身体が半分無くても活動していた人とは思えない返事だが、そうなんだろう。


 心は同じ。


 誰かを思い、信じ合う。


 友達がいて恋人がいて家族がいて——そういう事なんだろう。


 ちょっと心も身体も暖かくなって来た僕はうとうとし始めた。


 眠りに落ちる僕に、『鬼丸』の声が蘇る。


 ——時を飛ぶ時はお主の必要な時へ飛ぶのじゃ。


 曲垣君に必要な何かの為に、僕らはここへ来たんだろうか……。





 つづく

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