第132話 この時代の食糧事情


 水汲みずくみの力仕事を手伝って、ヘトヘトになって其角きかくさんの小屋に戻ると、美羽みうが出迎えてくれた。


「遅いよ、一志かずし。一人でつまらなかった」


「こっちはクタクタだよー」


「あれ? 其角様は?」


「ああ、食事をもらって来るって」


 普段、其角さんは食事は藤十郎さんの所でとっているそうなのだが、今回は僕らと夕食共にするのだと言っていた。


 冷たい足を炉端で温めていると、其角さんが戻ってきた。手には盆を持っている。盆の上には木でできたお椀が四つのっていた。


かゆしかないが食べてくれ」


「ありがとう其角さん」


 お椀を受け取って中を見ると、薄いお粥が入っていた。麦粥を雑穀や菜葉なっぱでかさ増ししているようで、曲がった箸を使って口に運ぶと味も薄かった。


「……」


 未来から来た三人は無言になる。美羽も現代で濃い味付けに慣れていたから、目をぱちぱちさせて、何と言おうか迷っているみたいだ。


 助け舟を出すように其角さんが笑う。


「君らには少なかろうな。私は自然の気で補えるが、一志達には足りないだろう」


 量も味も足りないですが。


 これだけ?


 いや、まあ、この時代はそうなんだろうけど。


 ちら、と曲垣まがき君の方を見ると、僕と目が合った。その目は確実に「食べ物に文句言うなよ」と言っている。


 あたりまえだろ。わかってるよ、と目で返す。


「ここのところ、飢饉ききんが続いていてな。これでもここはましなものが口に入る方なのだ」


「飢饉?」


「うむ、この秋も下の里の方は酷かったらしい。この辺は備蓄があたりまえでな、そのおかげでなんとかしのいでいる」


 なんでも刀鍛冶の為の炭を貯蔵するのに合わせて、穀物や干し魚などを備蓄していたらしい。


「日照りが多くてな。雨乞いなどもしたのだが、雨は降らなかった。それで……」


 其角さんが少し言い澱む。僕達にわざわざ話すほどのことなのか迷ったみたいで、でもすぐに口を開いた。


「それでな、飢饉を鎮めるために、神社に奉納する刀を打って欲しいと、藤十郎に依頼があった。だが、なかなかうまくいかなくてな。悩んでおったのだ」


「なんで?」


「さあな。こればかりは藤十郎が自分で乗り越えねばなるまい」


 其角さんは僕らの来訪が気分転換になるのではないかと思ったみたいだった。





 つづく

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