第127話 いったい今は何時代なのでしょーか?


 そこには驚いた顔の其角きかくさんが立っていた。相変わらず色白だけど、手足も無事に復元されていて元気そうだ。


 作務衣さむえに似た着物を着ていて、頭には幅のある布を巻いている。正面から見る限り、彼の一本角は見えない。


 驚いていた其角さんの顔がほころぶ。僕も美羽みうも同時に笑って駆け寄る。


「其角さん!」


一志かずし! 美羽! どうしてここに……」


 そう言いながら僕が手にしている『鬼丸』を目にして納得した表情をした。


「そうか、この刀の力でやって来たのだな。それにしても久方ひさかたぶりだ。元気にしていたか?」


「其角さんこそ! 何ヶ月ぶりかなぁ」


「何ヶ月ぶり……ははは、一志の方ではそのくらいの月日が流れたのだな。私は五十年ぶりだぞ」


「ええっ!? そんなにつの?」


 ちっとも姿が変わらない其角さんに驚いてしまう。


「よく考えれば君達の姿も変わらないな。少ししか月日が流れていないということか」


 その数ヶ月の間にいろいろあったんだけど。


 気がつけば美羽が其角さんのそですがったまま、ぽろぽろと涙をこぼしている。久しぶりに会えたから、気持ちがたかぶっているんだろう。


 其角さんもそれに気がついて、土間から板間に上がるように勧めてくれた。其角さんは窓の戸を開けて家の中に明るくしてくれた。


 光が入ると家の中の様子がわかる。


 土間と板間だけの狭い小屋だ。板間の真ん中には囲炉裏いろりがある。土間には大きな水瓶があって雑然と家財道具が置かれている。


 僕と美羽と曲垣まがき君と其角さんの四人で囲炉裏を囲むと、其角さんが埋めていた火種から火を起こしてくれた。そういえば少し肌寒い。


「其角さん、こっちは僕の——と、友達の曲垣君」


 曲垣君には僕の身に起きた不思議な出来事を話していたので、思ったよりもすんなり受け入れてくれた。其角さんとも緊張しながら挨拶を交わしている。


「友達って言って良かった?」


「改めて言うな。気恥ずかしい」


 曲垣君は少し怒りながら腕組みをする。ちょっと安心している僕を見て其角さんが微笑ほほえましそうにしている。


「其角さん、今って何時代?」


「何時代と言われても——鎌倉が国を支配しているが……執権しっけん北条殿が式目しきもくを制定したとか聞いた」


「鎌倉時代か。シッケンホウジョウって誰だっけ?」


 曲垣君があきれたように答えてくれる。


「北条氏だ。式目を制定したというなら北条泰時ほうじょうやすときだろう」


 何を言われているのかわからないけど、とりあえずわかったフリだ。とにかく鎌倉時代だな。


「……そっか。——其角さんは今何して暮らしてるの?」


「ああ、私が鬼だということを知った上で受け入れてくれた者がいてな。そこで刀鍛冶の仕事を手伝っている」


「刀鍛冶?」


 僕と美羽から驚きの声がもれる。だって彼が刀鍛冶をしているってことはもしかして——。


「そうだな。もしかしたらもしかするかもしれないな」


 それだけはわからん、と其角さんは笑った。





 つづく

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