第126話 さてさて僕らはどこに落ちたのでしょうか?



 またもや空中に放り出される。


 フワッとした感覚から急激な落下。


 ただ、前回とは違って、どこかの暗い部屋の中に飛び出した。だから落ちた高さは2メートルくらいだろうか。


 とはいえ板の間に投げ出されて、僕はしたたかに背中を打った。


「ぐっ……!」


 それでも危険がないか目を開くと、真上から——。


「よけろ!」


 曲垣まがき君が左手に『鬼丸』をつかんだまま落ちてきた。


 よけれないって。


 どかんと曲垣君が僕の上に落ちて来た。


「ぐおおっ!」


「すまん、大丈夫か——」


 心配そうに覗き込まれて、僕は涙目で答える。


「大丈夫……」


 答えたその僕の目に、曲垣君の更に上から——。


「きゃあ! よけて!」


 浅葱あさぎ色の髪をなびかせた美羽みうが落ちて来る!


 曲垣君にぶつかる!


 と、思った瞬間、彼は僕の上から横に転がって美羽をよけた。


 ということは——。


 どかん!


「……!」


「ごめん、一志かずし


 息が止まって苦しむ僕の目に、美羽がすまなそうにしているのがうつる。


「い……いいから、早く、降りて」


「あっ、ごめんなさい」


 二度も垂直落下体当たりをくらって大丈夫のわけはない。僕はしばらく仰向けになってしまった。かたわらに立つ二人の会話が耳に入って来る。


「もう一人来るのか?」


「オペラちゃんのこと? どうかな……?」


 はっ!


 もし同じ場所にオペラまで落ちて来たら、僕はダメージで死んでしまう。


 僕は慌てて飛び起きた。


 しかし待ってみても一向にオペラが追いかけて来る気配がない。どうやら移動したのは僕と美羽、曲垣君の三人らしい。


 立ち上がってパッパッとほこりを払うと、辺りを見回す。暗い部屋だとは思ったが、どうやら灯り——電灯のようなものがない。全部が木造りの小屋みたいだ。


 もしかしたらかなり昔の時代なのかもしれない。


「『鬼丸』?」


 曲垣君から『鬼丸』を受け取りながら呼びかけるが、返事が無い。じっと『鬼丸』の顔を見つめたが、どうやら寝たふりでも無いようだ。


 以前にも一度こういう事があった。


 初めて僕が時空を超えた時だ。


 あの時は鬼ヶ島に着いて何分かは話をしていたが、美紅みくに会った頃には喋らなくなっていた。


 なぜ急に話をしなくなったのか——というか『鬼丸』の意識が無くなったのか、美紅と二人で考えた事がある。


 美紅の予想では、近くに『鬼丸』の中に入っているのと同じつのを持つ其角きかくさんがいたからではないかと言っていた。


 と、いうことは……。


 ガラガラと無理やり木戸を開ける音がして、白い光が一斉いっせいに入って来る。僕らは白い光を背負った人物を見た。


 逆光でよく見えない。


 それでも、僕と美羽の口からその人の名がこぼれた。


其角きかく……さん……」




 つづく

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