第124話 きっとこれは僕の宝物になる


「何してんの?」


 オペラの気安い声を背後から受けて、僕はびっくりした。


「うわ! 驚かすなよ!」


「驚かしてないよ〜。お客さん待たせて何してんなかなって」


 振り返ればオペラの後ろには曲垣まがき君がいた。


「なかなか戻って来んので案内してもらった」


「あ、そ、そうだよね」


 僕は慌てて涙を拭う。みっともない所を見られた。けれど二人は気付かなかったのか、気付かないふりをしてくれたのか、そのことには触れなかった。


 僕は二人に向かって手を差し出した。


 手のひらの上に乗せられたものを見て、二人も目を見開く。僕の話を聞いている二人だから、それが何であるかすぐにわかったんだろう。


 オペラが少し懐かしそうに呟く。


「これ、美紅みくさんの……?」


「鬼のつのか……初めて見た」


 それはそうだろうな。それに美紅の角は僕だってあの夜に初めて見たんだから。


 そうだ、美羽みうにも見せよう。


「オペラ、美羽にも知らせたいんだけど……」


「おっけー、呼んでくるよん」


 オペラは足取り軽く出て行った。


 僕は机の上の一番いい場所にそれを置いた。良い場所ってのはいつでも見える場所のことなんだけど。


 後で小さなクッションでも用意してあげないとな。そう思いながら、宝石のような角をそっと撫でた。





 つづく

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