第123話 君が残してくれたもの


 あまり勢いよく部屋の戸を開けたので、部屋の隅に立てかけてある『鬼丸』が、ビクッと飛び上がる。


『なんじゃい!? 驚かすでない』


「ごめん。僕の刀を——」


『ほう、わしでは物足りぬか?』


「いいんだよフツーので。友達が来てるんだ」


 和室に無理矢理入れたベッドの脇に、僕の荷物が置いてある。見慣れすぎてて意識しなかったみたいだ。


『お主の友達とは珍しい。おぺら殿とは別か?』


「そうだよ……あれ?」


 練習用の刀を入れてある長いバッグに手をかけると、脇の小物入れのポケットが膨らんでいるのに気が付いた。


 こんな所に何か入れていただろうか?


 確かめようとファスナーを滑らせて、中に入っていたものを取り出す。


「あ……!」


 僕の手の中に転がり出たのは、金地に赤を流したまだら模様が美しい——美紅のつのだった。




「こここ、これっ!」


 僕は『鬼丸』にそれを見せる。


『鬼丸』もビョンッと飛び上がる。


『こここ、これは!』


 間違いない。


 美紅のつのだ。


 金と赤い漆で作った宝石みたいな彼女の角が二つ、僕の手の中で優しく輝いている。暖かささえ感じるそれは、確かに美紅がいた証だ。


「こんなところに……」


 君とまた会えた気がして、僕は静かに泣いた。




 つづく

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