第122話 本当にうっかりしただけなんだってば
かいつまんでだけど、『鬼丸』と
曲垣君は自分も手帳の世界に引き込まれた経験から、僕の話を信じてくれた。僕はその事に心底ほっとする。
「そうか。それは……
「信じてくれるの?」
「あの体験が無かったら、理解できなかっただろうな」
そういえば、そもそもなんで曲垣君が僕らと一緒に過去の出来事を見れたのかよくわからない。
その場にいた曲垣君のおばあちゃんは何も見ていない様だったし。
「——あの女子に初めて会った時は、とんでもない奴が見学に来たと思った。だがお前の話を聞けば納得いく。ただの変な外国人というわけではないんだな」
「変な外国人って……」
「
「そっか」
中島町錬成会にはまだそういう観光客が来たことがないから知らなかった。
「ところで、だが」
曲垣君は改まった声を出した。
「なに?」
「刀の稽古は離れれば離れただけすぐに腕が落ちて行く。今からでも素振りをしろ」
「ええっ?」
「何が『ええっ?』だ。ちょうど広い庭もある」
曲垣君は僕に稽古をさせるために来たのか。でも稽古に来ない僕を心配してくれたのだろう。曲垣君に心配されるなんて、ちょっとだけ嬉しい。
「そうだね。じゃあ刀を持って来るよ——ああっ!」
「なんだ?」
「僕、稽古道具一式どっかに忘れて来た……」
「なんだと!?」
どっかに、というよりは美紅が倒れた所に放り出して、彼女を
「だ、大丈夫。近所だから——きっと誰かが交番に届けてくれてる——はず」
「……緊急時だったのなら、仕方ない。が、なんでそんな大事なもんを落として来るんだ!」
「ごめんて」
僕は慌てて立ち上がり、茶の間に駆け込んだ。茶の間では母さんとオペラが僕らと同じねりきりをおやつにしていた。
「ちょっと交番に行ってくる。稽古着とか刀を落として来た」
僕がそう告げると、二人ともポカンとした顔をして、それからオペラが
「今頃になって何言ってんのさ。君の刀はあの夜に僕と
「ええー!? なんで教えてくれないんだよ」
「
母さんから怒られた。それもそうだ。慌てすぎてイライラしてしまった。
「ごめん、オペラ。僕、すっかり忘れてて」
「いいよー。君の部屋に置いといたよ。気付かなかった?」
気付かなかった。
良かった。
一人で廊下を走りながら、僕はオペラと
下手したら誰かに持っていかれるとか、ゴミみたいに扱われるところだった。
それを思うと二人には感謝してあまりある。
僕は部屋の戸を勢いよく開いた。
つづく
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