第121話 曲垣君、初めて僕のうちに来る


 さっきまで日向ぼっこしていた座敷に曲垣まがき君を通すと、オペラがお茶とお菓子を持ってきた。


「ありがとう、オペラ」


「ごゆっくり〜」


 オペラは曲垣君をチラッと見ると軽く挨拶して出ていった。美羽みうも曲垣君にペコリと頭を下げると、オペラについて行ってしまった。


「お前のうちは派手な奴が多いな」


「まあね。気にしないでよ」


 僕は彼に座布団をすすめると、茶菓子を並べた。今日は母さんの手作りじゃなくて『金華堂』のねりきりだ。


「今日はどうしたの?」


「どうしたの、じゃねえよ。なんで二回も稽古サボってんだ」


 しまった。


 美紅の事で、稽古をすっかり忘れてた。


「なんかあったのか?」


「あ、うん……」


「あの手帳のせいか?」


 手帳——。


 曲垣君が言っているのは、あの『反魂玉はんごんだま』事件の時代に引き込まれた件だ。


 確かにあの手帳のせいで、美紅みくは『転生卵てんせいらん』の事を思い出して、思いつめてしまったようだった。


 あの時はまさかこんな事になるなんて思ってもいなかった。僕は曲垣君に美紅の事を話し始めた。


「実は——美紅がいなくなったんだ」





 つづく

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