第112話 鬼ヶ島の記憶7


美紅みく!」


 その声にハッと気がついて顔を上げると、目の前に美羽みうがいる。例の二人だけの空間である。


 ——よく無事だったものだ。


 雪牙丸せつがまるの接近を思い出して、鬼姫・美紅は肌が粟立あわだった。咄嗟とっさに美羽が入れ替わってくれたおかげで助かったのだ。


「美羽、助かったぞ。礼を言う」


 それからは折を見て二人は入れ替わりを続けた。美紅も美羽の身体を動かすことに慣れ、成長するにつれ鬼力きりきの扱いもけて来た。


 同時に美羽にも鬼力きりきの扱い方を教える。


「そう、腕全体に力をためて——手のこうに埋め込んだつのに集約する感覚だ。そこから手のひらから電撃を放出する」


「こう?」


「そう。同じように飛ぶ時は——」


 逆に美羽は残っている人間達の情報を美紅に教えた。


「今日は××が居なくなった」


「——その者は雪牙丸の側仕そばづかえではなかったか?」


「……うん。昨日、喧嘩してたから多分……」


 ——多分、始末された。


 鬼としては敵が減るのは喜ぶべきところだが、雪牙丸の行動は異常である。仲間である人間を一人また一人と消して行くのである。


「このままではが居なくなるのではないか?」


「……」


 美羽は表情を曇らせた。


 そしてしばらくしてから、その表情はついに悲しみの色を濃くし、美羽は美紅に抱きついて泣き出した。


母君ははぎみが! 母君が!」


 その一言で鬼姫は全てを察する。


 雪牙丸はついに肉親すらも手にかけたのだ。


 泣きじゃくる美羽をなだめながら、美紅が聞き出したところによると、身内まで傷つけ殺める雪牙丸を母君・薄羽うすばかたいさめたらしい。




 つづく

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