第111話 鬼ヶ島の記憶6


 久しく見ていなかった鬼の姿を見つけて、雪牙丸せつがまるは高揚した。黄金と虹を混ぜ合わせて朱色の影を移ろわす見事なつの。子どもながらに立派な角を持っている。


 ——間抜けな子鬼だ。


 よりによって我が屋敷に入り込むとは。


 子鬼を捕らえれば、その親も出てくるかもしれん。その中には、結界を張り続けている鬼がいるに違いない。


 まだ見ぬ結界のつのを得る事にほくそ笑んで、雪牙丸は子鬼が逃げ込んだ部屋へゆっくりと踏み入った。


 薄暗い部屋の奥に、片付けられていない女物のうちかけが散らばっている。


 その中の一つがもぞもぞと動いた。


 どうやら子鬼はこのうちかけの下に潜り込んで隠れているらしい。


 ——馬鹿めが。


 雪牙丸はうちかけを剥ぎ取った。





兄様あにさま!」


 うちかけの下から飛び出て来たのは愛くるしい幼子——妹の美羽みうであった。


「……美羽? 他に子どもは居らぬか?」


 雪牙丸は次々と床に落ちているうちかけやひとえをめくっていくが、その下には誰もいない。


「美羽、誰かと遊んではいなかったか?」


 雪牙丸は美羽を抱き上げながら問うてみたが、妹はふるふると首を振る。


「我の見間違いか……」


 鬼が現れる事を切望しすぎて、幻でも見たのだろうか。雪牙丸は大切な妹に頬擦りすると、


「必ず外へ連れて行ってやる」


 と一人約束事を呟いた。



 つづく

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