第104話 宝珠のもたらすもの



転生卵てんせいらん』に鬼力きりきを込めた本人が再び生まれるってことは——。


「それって——」


 クローンだ。


 自分の記憶持った複製クローンを、自分ではぐくみ産み落とす。


 かなり怖い。


 あるいは——。


「そう、準備された『転生卵』を別人に任せても良い。男の鬼が鬼力きりきを込めればそれが出来る。だがその裁量は女に任される」


 代理母出産ということだろう。


「これを繰り返せば、永遠に生きながらえることが出来る。理論上はな」


「実際にやった人はいないってことか」


「——同じ魂を持った者同士が出会うとな、戦いが始まるのだ。喧嘩ではないぞ。魂同士がぶつかり合い、生き延びる方を決めるのだ」


 同じ魂が争う?


「だから自分の複製ふくせいを作ろうと自分で『転生卵』を使えば、赤子の自分を産み落とした瞬間にどちらかが死なねばならない。だからそれが出来るのは人の心の無い者だけだろうな」


 若返るために転生するなら、自分を産み落とした瞬間に自分が死なねばならない。


「それはなんというか、あれだね……ハイリスクハイリターン? 危険だけど、対価が凄そうだよね」


「……我が生きていた頃ですら半ば伝説に近い宝珠だった。作った者の真意は知らぬ。ただ——」


 ついに美紅みくは夕闇に姿を溶かし込んだ。あの金色の瞳さえ今は見えない。


「——私も使ってしまった」


 ぽつりとつぶやいた美紅の声はどこまでも暗く沈んでいた。




 つづく

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