第103話 宝玉の秘密と曲垣君の血脈



一志かずし、『転生卵てんせいらん』と聞くとどのような力を持っていると思う?」


「えっ? 生まれ変わるんだろ? なんたって『転生』ってつくくらいの物なんだから、使った人が新しい生命を授かる? あ、それとラノベだと前世の記憶を持ってたりとか」


「ほう」


 僕の言葉に、美紅みくは感心したらしい。


「思いのほか、話が通じるな」


「なんだよそれ」


「……『転生卵』を使うとな、確かに生まれ変わるし、前世の記憶も保持している。おそらくお前が思うよりもはっきりとした記憶だ」


「でも、別の人間だろ?」


 美紅はゆるゆると首を振ると話を続けた。僕の考えは少し違うらしい。


「あの曲垣まがきとやらの曽祖母そうそぼが聞いた話を覚えているか?」


「うん? 『反魂玉』をもらった時のこと?」


「そうだ。あの佐和さわとやらが御母堂ごぼどうから聞いた話だ」


『母の母の母の——ずっと昔の方に不思議な御力おちからを持ったお人がおりました。その方はこの珠を使って、生き返ったそうです——』


 確かそんな事を言っていた。


 美紅は夕焼けの残滓ざんしを金色の瞳に映しながら、僕を見た。


「祖先に不思議な力を持つ者がいた、というのは恐らく生き延びた鬼のことだ」


「じゃあ、美紅達の他にも『鬼』がいたってこと!?」


「そうだろうな。あの島が滅びるより前に島を離れた者もいたのだろう」


 その中に鬼の細工師がいて、いくつかの宝珠ほうじゅを作った——それが曲垣君のおばあちゃんちに伝わって現在に至るということか。


「それから『生き返った』というのは『転生卵』の伝説がいつの間にか『反魂玉』の伝説にすり替わったのだろう」


『転生卵』は使用すると消滅するが、『反魂玉』は鬼力きりきさえ補充すれば何度でも使えるのだと美紅は補足する。


 とすれば『転生卵』を作れる者が居なくなれば、もうこの世には無い幻の宝珠となる。


「鬼ってすごいもの作ってたんだな」


「…………」


「美紅?」


「……まだ、『転生卵』について言っていないことがある」


 すっかり陽が落ちて群青ぐんじょう色の空には白い月が見えている。もはや美紅の瞳はそれ自体が光りを放っているかのように夕闇の中浮かんで見えた。


「……『転生卵』が母から娘へのみ受け継がれている意味がわかるか? あれは女の身でしか使えないからだ」


「女性専用の呪具ってこと?」


「もっと単純な事だ。女の身体なら卵をはぐくめるという理由に他ならない」


 僕は目をしばたいた。


 まあ、そういうことなんだろうし。


 ちょっと動揺する僕に構わず美紅は続ける。


「女の鬼が『転生卵』に鬼力きりきを込める。それを身の内に入れれば子どもを成すことが出来る。ただし生まれてくるのは——」


 周りがいっそう暗くなる。


 美紅の瞳だけが爛々らんらんと輝く。


「鬼力を込めた者、本人だ」





 つづく

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