第102話 もう一つの宝珠があるんだって


「武術によって魔を払うというのは理屈にあっておるな。刀が気をはらい清めるのだろう」


 美紅みくはなるほどと一人合点して頷いている。


 その後で「しかし」と続けた。


「今一度確かめたいのだが、二つあった珠は間違いなく二つとも黒い珠で、他には無いのだな?」


 曲垣まがき君のおばあちゃんは肯定しつつ首を傾げた。


「そう聞いていますよ。母と伯母は同じ物を渡されたと。それから他に宝珠があったとは聞いてないわねぇ」


 確かに僕らが見た手帳の記憶では姉妹は同じ色の宝珠を受け取っていた。美紅はなぜ念を押すように「同じ物か」と聞いたのだろう。


 僕は不思議に思ったが、美紅は納得したように頷くとそれきり鬼の宝珠について、曲垣君のおばあちゃんに聞くことはなかった。




 曲垣君のおばあちゃんのうちを出ると、僕らは曲垣君と別れて帰り道についた。残念ながら曲垣君の家は逆方向なのだ。


「今度あの現象の説明をしろよ」


 そう言われたが、僕には見当もつかない。曖昧あいまいな返事をしたくなかったが、とりあえず手を振って別れた。


 すっかり陽が傾いて暗くなってきた帰り道、歩きながら僕は『鬼の宝珠』について考えを巡らす。


 ——間違いなく黒い珠であったのだな?


 美紅の声が甦る。


 いくつか作られた遺物なら同じものがあってもおかしくないんじゃないかな。


 道具なんだろうし。


 「空を飛ばない」という僕との約束を守って隣を歩く美紅に聞いてみた。


 考えた事を述べると、美紅は僕を見て説明する。


「『反魂玉はんごんだま』とそれに似た『転生卵てんせいらん』はついで作られることがたまにある。二つあると聞いたので、もう一つの『転生卵』があるのかと思ってしまった」


「何それ?」


「『反魂玉』よりも珍しい物だ。『反魂玉』がかりそめの魂との対話をする物なら——『転生卵』はその名の通り使用者を生まれ変わらせる呪具だ」


「生まれ変わる——? 本当に?」


 美紅は神妙な顔をして頷いた。きっと生まれ変わった誰かを見た事があるんだろう。


翡翠ひすい色の鮮やかな色の珠でな。大きさもちょうど『反魂玉』と同じくらい。鬼力きりきを必要とするのも『反魂玉』と同じだな」


 かすかにオレンジ色の雲が残る西の空を眺める美紅の瞳にはどこか寂しげな——でももっと複雑な何かが潜んでいた。


 歩みを止めた美紅は、突然、僕の方を見た。



 つづく

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