第97話 手帳の中の世界3
それは真剣に問うた声であったが、母は笑って、「伝説だと言ったでしょう。使い方なんてありませんよ」と笑いながら
そう答える
——きっと、お姉様もそう感じている。
佐和はどこか嫌な予感がして、
昨夜の事を思い出しながら、畳の上に転がった
「お姉様、逃げましょう」
「え?」
「意に染まぬ結婚など、やめましょう」
妹の
「私は、何もできない。ここから逃げ出して、どうすれば良いのかさえ思い至らない愚か者です」
「お姉様!
今となっては
それでも、伝わるものはあったと要は思う。言葉に出したことはなかったが、あの折に触れて会話して見つめ合うひとときに、お互いの気持ちは通じていたのだと信じている。
「あの方は——」
なぜ、何も言わずいなくなったのだろう?
いや、あと少し期が熟せば、きっと彼の方も想いを伝えてくれたはずだ。
「ねえ、逃げましょうよ、お姉様」
佐和の声にはっとして我に返ると、要は妹の顔をまじまじと見た。まだあどけない少女の佐和は自分とは違ってきらきらしている。
——私が逃げたら、縁談の話はそのまま佐和が受けることになるかもしれない。
だからそれは出来ない。
「——ありがとう、佐和。もう、大丈夫だから」
つづく
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