第96話 手帳の中の世界2


 カタン、と硬質な音がして鏡台きょうだいから何かが転がった。それは畳の上で一度跳ねるとその場でコロンと回ってから止まった。


 蒔絵まきえのような、黒地に金や朱色、白を散らした駒鳥こまどりのたまごみたいな飾り玉だ。


 母方の家に伝わるもので、代々だいだい娘へ娘へと受け継がれているという御守おまもりだ。そもそも御守り袋に入っていたらしいのだが、二つのたまを二人の娘に分け与える為に母が袋から取り出したのだった。





 昨夜二人を——かなめ佐和さわを呼んだ母は、目の前で漆塗りに似たこの飾り玉をひとつずつ二人の手に握らせた。


 飾り玉は妙にヒヤリとして冷たかった。


 それと同じくらい冷えた目で母は二人を見ている。いつもと違う母の姿に、佐和は思わず姉に身を寄せた。


「今から話すことは絶対に他人に話してはならぬ事です。——はいつからはわからぬほど昔から母から娘へその娘が母になればまた母から娘へと受け継がれて来た宝玉です」


 二人はそれぞれの手に乗る珠を見た。


「母の母の母の——ずっと昔の方に不思議な御力おちからを持ったお人がおりました。その方はこの珠を使って、生き返ったそうです。——そのような伝説が伝わっているばかりのさもない飾り玉ですが、それぞれの御守りとして持っておきなさい」


 そして、次の代へと受け継いで行きなさい、と母は話を終えた。




 話し終えた母はまるで重荷をおろしたかのように、明らかにほっとした表情を見せ、いつもの優しげな顔に戻っていた。


 反対に、たまさずけられた二人の娘は青ざめ、いつまでっても温まらない冷たい宝珠を手に固まっていた。


 手にした宝珠が、母の言葉と共に娘に受け継がれ、秘密と共に何か解らぬ重責を押し付けてくる。


 佐和はぞっとした。


 しかし反対にかなめは少し震えた声で、母に尋ねた。


「——お母様、使い方は……?」




 つづく

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