第91話 流行りのコーヒーショップで


 漆黒しっこくの漆塗りに朱色と白色と金色を少し散らしたいかにも通好みの飾り玉はうずらの卵より小さくて、濃紺の組紐を穴に通して、曲垣君の刀のケースバックにつけられていた。


 僕と美紅みくは物珍しげにそれを繁々しげしげと見つめた。


 向かい側には今季限定のカフェラテを口に運ぶ曲垣まがき君が、胡散臭うさんくさそうに僕らを観察している。


「その飾りがなんだってんだ?」


「いや、その……」


 僕よりも美紅の方が詳しいのだが、彼女は金色の瞳を輝かせてうずらの卵に見入っている。少しだけその瞳に影が差した気がしたが、気のせいだろうか。


「美紅、お茶が冷めちゃうよ」


 美紅は流行りのコーヒーショップに入ってもコーヒーよりは紅茶を好んでそれを頼んでいた。ちなみに僕は曲垣君と同じものにした。


「うむ。間違いない、本物じゃ」


 断言した美紅に冷たい目を向けて曲垣君が聞く。


「なんの目利めききだ?」


無知蒙昧むちもうまいなる其方そなたに教えてしんぜよう。これは我等われら一族に伝わる『反魂玉はんごんだま』じゃ」


「誰が無知蒙昧だ」


「『反魂玉』って何?」


 曲垣君のツッコミをスルーして僕が聞くと、美紅は誇らしげに胸を張る。


「死せる者の魂をひととき地上に呼び戻す宝玉じゃ」


「ええー? 本当?」


「馬鹿らしい」


 曲垣君は信じてない。だけど僕は鬼も知っているし、しゃべる刀も知っている。だから美紅の言うことも真実なんだと思ってる。


「最後の心残り叶えるためにかりそめの命を与えてくれる物だが……そうだな、これは穴を穿うがったために力を失っておる」


「じゃあ使えないの?」


「無理だな。『反魂玉』は鬼力きりきを注いで死者の魂を呼んで使うのだが、穴の空いたこれを使っても魂を呼び戻すのは無理だろう」


「……お前らが何を言っているのかさっぱりわからん」


 曲垣君は僕らの目の前から『反魂玉』を取りあげた。


「ふん、壊れているから害はないが、お主はそれをどこで手に入れた?」


「……」


 答えずにらむ曲垣君。ちょっとヘソを曲げているようだ。


「教えてよ曲垣君」


 僕が両手を合わせて拝むと仕方しかたなさそうに、教えてくれる。


「この前、ばあちゃんがくれた。そん時にはもう紐は通してあったぞ」


 それを聞くと美紅は身を乗り出した。


「その者と話がしたい。どこにおる?」


「なんでお前に……」


「お願い! 曲垣君!」


 再び手を合わせると、曲垣君は呆れ顔をしながら、


「わかった」


 としぶしぶ了承してくれた。




 つづく

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